[携帯モード] [URL送信]

短編集・読み切り



「ん?」

 鞄を肩にひっかけたまま首だけがこちら

を振り返る。

 その調子がまるで普通で、その調子でヒ

デに“放っておけ”と言ったのかと思うと

どうしてもこのまま見逃すことは出来なか

った。


「なんで、行かないんだ?」

「行くって何処へ?

 ヒデのダーツになんか付き合ねーって言

 ってるだろ」


 二人の間のことに口出ししてもいいもの

かと躊躇うオレに面倒くさそうな高取の声

が返ってくる。

 しかし岡本の状況を考えれば一刻の猶予

もないんじゃないかという焦りも背中をつ

つく。


「とぼけんな、岡本のことだよっ」


 思わず荒らげてしまった声は自分らしく

ないと思っても口から出てしまった以上は

引っ込めることは出来ない。

 岡本の気持ちは一方通行だったかもしれ

ない。

 高取はただ岡本で遊んでいただけで、飽

きたから放り出したのかもしれない。

 しかしあれだけ岡本に構っておいて、あ

れだけのことをさせておいて、こんな終わ

り方はあんまりじゃないのか。

 これじゃあまりにも岡本が報われない。

 島崎のように今更善人ぶるつもりはサラ

サラない。

 でも大して岡本に興味がないオレがこれ

だけ思うのだから、高取の行いは糾弾され

て然るべきではないのか。

 踵を踏み潰した上履きがひどくゆっくり

と振り返る。

 事の緊急性など関係ないとでもいうよう

だ。


「吉光はもっと冷めた奴だと思ってたんだ

 けどな。

 岡本に情が移ったんなら、お前がご主人

 様になってやれよ。

 変態だから口でもケツでも好きなとこ突

 っ込ませてくれるぞ」


 まるで焦っているオレをせせら笑う様な

目。

 岡本に肩入れしてそこまで焦ってやるな

んてと馬鹿にしたような憐憫の目。

 気づいたらもう何も考えずに口が動いて

いた。


「ふざ…んなッ!

 岡本はアンタだからっ、高取だから何さ

 れても何も言わなかったんだろっ!!

 今までさんざんオモチャにしといて、終

 わらせるにしたってもっとマシな終わら

 せ方があるだろうっ!」


 高取が体に落書きした…たったそれだけ

で岡本は高取の目の届かぬところでだって

体を開くのに。

 高取の名前を出すだけであんなに嬉しそ

うに従順になるっていうのに。

 そういうのも全部裏切って、切り捨てて

まるでゴミみたいに捨てるのか。


「だから…そんなに気になるならお前が拾

 ってやればいいだろ。

 アイツはフツーのプレイじゃイケない変

 態だし、」


 言い終わるまで聞いていたくなくて、目

の前の高取に大股で近づくとタッパの差も

無視して胸倉を掴む。

 高取本人は動じなかったけれど、ここに

きてようやく高取の目に剣呑な鋭さが宿っ

た。


「オレだって今更善人面するつもりはねー

 よ。

 偽善振りかざすつもりもな。

 だけど、こんな風に岡本を切り捨てるな

 ら、どうして岡本に手ェ出した。

 アンタが手を出さなきゃ、岡本だってフ

 ツーでいられたんじゃないのか」


 腹の底から低い声が出た。

 タッパがデカかろうが筋力に差があろう

が、そんなのは関係なく怒りが全てを支配

していた。

 たとえ一発殴られたって言いたいことを

ぶちまけなければとても気が済まない。


「オレらはともかく、岡本の人生狂わせた

 責任をとる義務がアンタにはあるんじゃ

 ねーの?

 責任をとる覚悟もねークセに、岡本を巻

 き込むんじゃねーよっ」


 ギリッと睨みつけてくる高取の視線が鋭

くなる。

 本当に殴られるんじゃないかと体が一瞬

にして強張った。





[*前][次#]

第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!