短編集・読み切り * 「でね、その時彼と目が合っちゃってね、 胸がキュンてしたのっ!」 だんだん興奮してきて声が大きくなる隣 のクラスの倉田。 それをいつものへらっとした笑顔を浮か べて聞いている慶一。 このへらっとした腐れ縁の幼馴染は、占 いが当たると女子に人気だ。 占いといってもカードや水晶なんかの占 いアイテムは一切使わない。 ただ話を聞いてうんうん言っているよう にしか見えない、俺には。 適当に相槌を打って、アドバイスらしき ことを言って、それでおしまい。 でも日頃からボーっとしていてヘラヘラ 笑っている慶一はいわゆる“ゆるキャラ” 扱いされているらしく、女子のほうも話を 聞いてもらえればいいのか慶一が適当なこ とを言って外れても噛みついてこられたよ うなことは未だかつてない。 くそっ…大判焼き一個でつられるなんて 間違ったか…。 そんな二人のやりとりをなんで机にへば りついて聞いているのかと言えば、慶一が 「待っててくれたら大判焼き一個」と言っ たからで。 でも興奮する倉田の話は終わりが見えな い。 すでにたっぷり1時間ほど費やしてほと んど一人で喋っている。 ぐううううぅぅ… 腹減った。しぬ。 [*前][次#] |