[携帯モード] [URL送信]

短編集・読み切り



「今、どんなこと考えてる?」


 愛撫の合間に不意に声をかけられて岡本

は返答に困った。



 しまった。気を逸らし過ぎてた。



 高取のおかげで人並み以上の回数の経験

を重ねている岡本は考え事をしながらでも

喘いでみせたり体内に押し入ってくるもの

を締め付けたりくらいの芸当はしてのける。

 というより、そうでなければ高取の無茶

な要求を呑み続けられはしなかった。

 だが肌を合わせもっとも近い距離で交わ

っている時に心ここにあらずな状況は、察

しのいい者はすぐに気づく。

 何度もセックスしたことがあり、尚且つ

自分自身の快楽よりを岡本を優先させる者

には特にバレやすい。


「ごめんなさい…」


 岡本は控えめな上目遣いでしおらしく謝

る。

 体力温存の為とはいえ、確かに失礼だっ

た。


「あの不愛想な奴のことでも考えてた?」


 言葉の頭に“また”をつけたいくらいの

心境だろうと推測できるくらいには岡本も

男のことを理解しているつもりだ。


「昨日も、遅くて…。

 ごめんなさい」


 伏目がちに理由を告げて、もう一度詫び

る。

 男にはそれだけで察せられただろう。

 昨日の夜も遅くまでどこかの公園の暗が

りで多くの男の相手をさせられたのだろう、

と。


「まったく…。

 本当にあんな人でなしのどこがいいのさ。

 俺なら大事に大事に、誰の目にも触れさ

 せないで可愛がってあげるのに」


 男がため息をつきながら眉尻を下げる。

 その動きで僅かに男の腰が動くと、既に

2度吐き出された精液で滑る岡本のアナル

は男のものをたまらないように締め付けて

岡本の悩ましく震える吐息が空気を震わす。

 その様子を愛で楽しんだらしい男は岡本

の中から出ていき、そっと岡本の頭を撫で

た。


「今日はもういいよ。

 ありがとう」


 岡本は男の優しい言葉に甘えた。

 男がどんな仕草に弱くてどんな風に甘え

れば喜ぶのか、回数を重ねるごとに分かっ

てきている。

 けれど罪悪感はなかった。

 男を騙している訳でもなければ、一方的

に与えられているわけでもない。

 男の方も岡本が高取に無理矢理にあれこ

れさせられているわけでないのを知ってい

る。

 純真無垢で清らかな存在とは程遠い。

 その上で岡本は誰かに救ってほしいと望

んでもいないし、それをこの男も知ってい

る。

 “そういう人間”だからこそ男の要望に

応えられるし、その対価として受け取るべ

きものを受け取っている…そういう認識だ。

 そこに必要なのは感情ではなく打算。

 利害が一致した結果の関係だ。

 ご主人様を鞍替えすればいいのになんて

いう言葉ももはやお決まりのピロートーク

のようなもので、本気で思い詰めているわ

けでないから岡本も聞き流す。

 そういう関係だから、岡本も続けていら

れる。

 岡本は体内に出されたものが零れないよ

うに出口を締め、衣服の乱れを整えるとシ

ャワーを浴びにそっと部屋を出て行った。




    ◇ - ◇ - ◇ - ◇




「どうぞ」


 岡本が待ちに待った日曜日、高取は岡本

の家を訪れていた。

 高取の目的さえ果たせれば場所はどこで

も構わないという雰囲気を察して、岡本は

両親不在の自宅へ招いてみたのだ。


「本当に親、いないのか」

「うん。

 取引先とゴルフで、そのあと食事会なん

 だって。

 だから帰ってくるのは夜かな」


 念の為にと再確認してくる高取に岡本は

笑みを零しながら頷く。

 朝目覚めてダイニングテーブルの上に置

かれたメモを見た岡本は小躍りしてしまっ

たくらいだ。

 平日も決して帰りが早くない両親だが、

せっかく高取と会える日曜日に帰宅時間に

急かされるのは気持ちのいいものではない。

 幼い頃から人見知りだが物静かで礼儀正

しく両親にとって手のかからない“いい子”

だった岡本を両親は今も信頼しきっている。

 しかしそれでも塾の言い訳が出来ない休

みの日に深夜帰宅をすればさすがに見咎め

られるだろう。

 両親にはずっと信じきったままでいてほ

しい。

 これからも高取と一緒にいる為に。

 だから接待ゴルフも夜の食事会も、岡本

にとっては両手を振って歓迎したい心境だ

ったのだ。

 高取は自分から尋ねておきながら興味な

さそうに相槌を打ち、促されるまま岡本の

私室に足を踏み入れた。

 岡本の許可も取らずにベッドに腰を下ろ

すが、岡本はむしろニコニコと笑みを崩さ

ない。

 高取がいつも使っているベッドに座って

いる。

 いっそそれで高取の匂いが染みついてく

れればいいのに、とさえ願ってしまう。


「何か飲み物持ってこようか?」

「コーラ」

「うん、わかった。

 待っててね」


 岡本はスキップでもしたいくらいの浮き

立つ心地でキッチンへ向かう。

 高取が岡本の部屋でいいと言ったという

事は裏を返せば野外で名前も知らない誰か

の相手をしなくてもいいという事でもある。

 だとすれば今日は岡本が待ちに待った日

なのかもしれないという期待が胸の中で否

応なく膨らむ。

 高取自身が岡本に触れてくれたのはいつ

だったか…と記憶を辿りかけて、熱を持っ

た股間が擦れる刺激に一瞬息を詰めた。

 “高取に可愛がってもらえる”

 そう考えるだけで幸せで、うっかり妄想

して射精してしまいそうだ。

 岡本は股間を手で押さえながら鼓動が落

ち着くのを待ち、なるべく速足でキッチン

へと向かった。





[*前][次#]

あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!