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短編集・読み切り



「俺のものになってくれたらもっと優しく

 するし、君が気持ち良くなることいっぱ

 いしてあげるのに」


 黒いタイツの下の白い下着に包まれた膨

らみは男の性欲を刺激するようだが、岡

本の体は高取の落書きのせいでずっと高

ぶり続けている。

 その形をなぞる様に曲げた指がタイツの

上から股間の膨らみを挟み込んで擦る。

 布地越しとはいえ直に刺激された岡本は

甘い吐息を乱しながらビクビクと腰を揺ら

す。

 そんな岡本の表情の変化に口元を緩ませ

た男は岡本が着ている襟元にピンクのリボ

ンが結ばれている白シャツのボタンを一つ

外して中に掌を忍ばせる。

 間もなく芯をもった乳首を掠め、男は自

分の言葉通りにそこを丹念に摘まんで揉み

始めた。 


「ぃ、ぁっ…」


 岡本はベッドについていた手でシーツを

握りしめて刺激に耐えようとする。

 しかし歯を噛み締めたくても喉が震え、

熱の引かない体に直接的な愛撫は刺激が強

すぎる。

 岡本は瞼を閉じて快楽をやり過ごそうと

した。


「俺のものになってくれたら不自由はさせ

 ないよ?

 君が欲しい物は全部買ってあげるし、ず

 っと一緒にいてあげる。

 君の可愛い乳首には僕のお気に入りのピ

 アスを贈るよ。

 きっと似合うだろう」


 腰を浮かせて少しでも男の指から逃れよ

うとした股間は布地越しに男の掌にしっか

りと包み込まれ、揉まれている乳首に突然

爪を立てられてバネのように岡本の体が跳

ねた。

 じわり、と先走りがおもらしみたいな染

みを作る。


「嬉しい?

 君がうんって言ってくれたら、今日から

 でもここに住めばいい」

「驚いた、だけです…」


 すっかりそのつもりになっている嬉しそ

うな男に岡本は首を横に振る。

 火照り続ける体に立て続く刺激は毒だ。

 高取とのセックスで多少手荒な刺激にも

体が慣れてしまっているだけ。

 岡本にとって高取以外のご主人様なんて

必要ないし嬉しくもない。

 体が愛撫に反応してしまったとしても、

心は死ぬまで高取しか受け入れない。

 岡本の頑なな態度に内心は穏やかでない

感情を持ちながらも表面上はなんでもない

ように男は愛撫を再開した。

 岡本の体はとうに出来上がっていて、ロ

ーションさえ使ってくれたらすぐにでも奥

まで貫かれても構わない。

 痴漢達が岡本を好き者と誤解するほど岡

本の体はいつでも男を受け入れられるほど

火照っている。

 それがあのペンの効力であり、高取が岡

本に課している事。

 けれど喘ぐ岡本の顔が見たいからという

理由で男は岡本の体を弄り回す。

 様々な体位で岡本の体内に幾度も己の精

をぶちまけて満足するまで。

 岡本は腰を揺すって声を上擦らせながら

耐える。

 目の前の男は“一緒にイキたいから”と

いう我儘を言って岡本を困らせる。

 だが岡本がどう思おうと岡本に突き入れ

ながらしつこく何度も扱かれると我慢でき

ずに精を飛ばしてしまうことがある。

 謝礼を受け取る手前仕方ないのかと諦め

半分で受け入れてはいるが、それでも少し

でも体力を温存したいと密かに抗ってもい

たりする。

 岡本の中でセックスと射精は別物だ。

 あまり体力があるほうではない岡本にと

って、射精は精神面だけでなく体力面での

消費が激しいのだ。

 この男が岡本の中で繰り返し果てて満足

するまで数回、シャワーを借りる時に何故

か必ず男の父親と鉢合わせるのでそこでも

相手をしなければならなくなる。

 目の前の男と違い父親の方は必ずしも岡

本の射精を促したりはしないが、シャワー

ルームで偶然鉢合わせしてしまって以来よ

く顔を合わせるようになった。

 2度目の時は偶然だと思っていたのだが、

それが3回4回と続いた時に待ち伏せされ

ているのだと確信した。

 岡本は表向き男が卒業した高校の部活の

後輩として家にあがらせてもらっている。

 その来客の予定を父親が知っていても不

思議ではない。

 岡本のシャワーが長い本当の理由を男が知

っているのかどうかまでは分からないが。

 午後には“アリサ”という偽名を使って

男の娘のフリをする。

 長いウィッグをつけ薄化粧をし、男から

譲り受けた女物の服を着ればまだ変声しき

っていない華奢な岡本は立派に可愛らしい

男の娘に化ける。

 そういう相手に金を払い割り切った関係

でセックスを楽しみたいという層の人間が

一定数ネットの募集に応募してくるのだ。

 今日の午後にも既にその予定が入ってい

る。

 金払いがよく使い終わった女物の服をそ

のまま譲ってくれる目の前の男の存在は有

り難いが、それ以上にはなりえない。

 全ては高取と少しでも幸せな時間を長く

過ごす為の打算的なセックスだ。

 何の見返りも求めず不特定多数の者達に

ただただ犯され続けた時間は体力的にも精

神的にも辛かったが、しっかりと目的をも

ってコントロールする術を学べば確実に相

手を欲情させられる高取の落書きは武器に

もなる。

 男の手管に声を震わせながら、岡本の指

先はさりげなくインクの跡をそっとなぞる。

 魔法のインクは岡本が高取のものである

という証であると同時に、二人を強く結び

つけるものだ。

 マーキングのようだと言われて岡本が喜

ばなかったわけがない。

 熱をはらむ男の気遣いを肌で感じながら

岡本は与えられる快楽から少しでも意識を

そらそうと別の事を考え始めた。





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