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短編集・読み切り



 ぐちゅっ


「ゃっ、ぁ…ん…」


 あと少しで射精できる、というタイミン

グで押し入ってきた時と同様に乱雑に高取

の指が引き抜かれた。

 高取の指を一瞬でも長く体内に留めたく

て岡本のアナルが締まるが、それも大した

意味はなかった。

 岡本の足元には滴った先走りが湖を作っ

ているが、それでも体の熱を誤魔化そうと

岡本は目を閉じる。


「おい」

「んっ…」


 体の熱をやり過ごそうとしている岡本の

首根っこを引っ張った高取は、今しがたま

で岡本の体内を掻き回していた指を岡本の

口に強引にねじ込んだ。

 綺麗にしろ、という無言の圧力を感じ取

った岡本は、高取の指に丁寧に舌を這わせ

て精液を啜り上げる。

 高取が岡本に自分の体に触れることを許

すことは稀で、どれだけ体が辛かろうと不

特定多数の他人に自分の体を好き勝手され

ている時よりも今が100倍幸せなのだ。


「…いつまでやってんだ。

 トロくさいな」

「んっ」


 少しでも長く高取の指に舌を這わせてい

たかったけれど、苛立つ高取が強引に指を

引き抜いてしまって岡本は内心落ち込む。

 名残惜し気に熱く潤んだ目の瞼が伏せら

れる様から高取がそれを察することはなか

ったが。


「今夜はいつもの時間にT公園な」

「うん…」


 T公園は地理的にやや遠いが同性同士の

カップルが多く訪れる、そういう嗜好の者

達がそれとなく集まるスポットだ。

 当然同性との性交に慣れている者が多く、

時にはそういう行為が初めてだという者が

岡本の体で初体験を済ませることもある。

 しかし経験者が大半を占め、つまり同性

を気持ちよくさせるテクニックに長けてい

るのだ。

 そういう者達を相手にする時、好意から

岡本を気遣って快楽を共有しようとする者

が多い。

 同性同士のカップルの場合どちらの立場

も経験していることが多いせいか、岡本の

立場の人間の気持ちを身をもって知ってい

る者も多いせいだろう。

 その結果どうなるのかというと、何故だ

か高取の機嫌が悪くなるのだ。

 高取自身にその自覚はないし、それを察

している岡本が高取に何かを言う事もない。

 それ以前に、岡本は自分を感じさせよう

とする人の相手があまり好きではなかった。

 高取の目の前で他の誰かの行為で気持ち

良くなりたくない。

 射精も絶頂も、高取の手で与えられたい。

 様々な手管を使って岡本が抗いきれない

くらいしつこく射精を誘われると心まで犯

されているようで、耐えきれないのだ。


「なんだ、嫌なのか」

「ううん。そうじゃないよ」


 岡本の返事の仕方が気に入らないと突っ

かかってきた高取に、岡本はとんでもない

と首を横に振る。

 岡本にとって高取の命令は絶対だ。

 異論はない。

 ただ以前に高取とT公園に行って、その

結果高取が機嫌を損ねて一人でさっさと帰

ってしまった事があった。

 その時にセックスした相手の一人が“不

機嫌になるんだったら最初から連れてこな

ければいいのにね”と呆れ顔で肩を竦めた

のは何となく記憶に残っている。

 “好きなのはわかるけど、壊れるまで我

慢しちゃダメよ?彼、鈍そうだし”そう言

ってウインクしたのは、ゲイのオネェだっ

た。

 “俺以外の奴にご主人様になってもらえ

ばいいだろ”と高取が岡本ですら呑めない

事を言い出して暴走したのは、それからだ

いぶ後の事だった。

 年長者の観察眼は凄いんだなと、岡本の

ベッドで眠る高取に抱き着きながら内心ひ

っそり思ったことは岡本だけの秘密だ。


「それから日曜日も。

 開けとけ」

「…うんっ」


 ついでのように付け足した高取に、岡本

は目を輝かせる。

 平日と違って学校という高取に会える口

実のない休日は高取の方から誘ってもらえ

ないと一緒に過ごすことができない。

 それと同時に多くの人々にとっても旅行

に行ったり家族や友達と出かける予定があ

るわけで、そんな日にたとえ掲示板で呼び

かけたとしても集まる人の数はあまり多く

ない。

 必然的に平日よりずっと高取本人と接し

ていられる時間の長い日に会えるなんて岡

本にとってはそれだけでデートに等しかっ

た。





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