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短編集・読み切り



「お兄ちゃん、今日は一日宿題?」

「うーん、どうかな。

 午前中はやらないと兄貴が煩いだろうけ

 ど。

 でもせっかく匂わなくなったなら街にも

 遊びに出たいかな」


 フェロメニアの匂いさえなければ秀も嫌

な顔はしないだろうと駆は期待に胸を躍ら

せる。

 そんな明るい駆を見るのは麗も嬉しかっ

た。


「じゃあ僕も一緒に行く!

 いいよね、お兄ちゃん?」


 ベッドを飛び出して腕にしがみついてき

た麗に駆は“勿論”と頷いたのだった。




 それからさらに3時間後の吉光家。

 枕元に置かれていたスマホが何らかの通

知を受け取って鈍く震える。

 それに眠りを妨げられた吉光はまだ眠い

目を擦りながら起き上がる。


「やべ…寝落ちした…」


 もう陽も高いというのに部屋の電気は煌

々とついていて、大きな欠伸を繰り返しな

がらようやく部屋の照明を消す。


「…寝るか」


 朝に弱い吉光はまだ眠り足りないとベッ

ドの中に潜り込む。

 毛布にくるまって幸せな微睡を漂いだす。

 目覚める前に何だかとても大事な夢を見

ていたような気がするのだが、それは記憶

のどこを探しても見つけることが出来ない。

 やがてやってきた睡魔に“大事な夢を見

た”ということすら塗り潰されて思い出せ

なくなっていく。

 忘れてしまう程度のものなら、大して大

事な事でもなかったのだと眠い頭がこだわ

るのをやめた。

 するとまたスマホが震えた。

 今からまだ眠るつもりだというのに煩い。

 吉光が確認してみるとそれはメッセージ

を飛ばせるアプリからの通知だった。

 そこに島崎の名前が並んでいる。


『ミツ、おはよう』

『ミツ、起きてる?』

『今日の約束覚えてるよね?』

『昼過ぎに駅前に集合だからね。

 二度寝して寝過ごさないでよ?』


 煩い。

 メッセージだけだというのにものすごく

煩い。

 お前は女子かと突っ込みたくなる。

 イブの夜は長期出張で単身赴任している

父が帰宅するから遊べないと断った吉光に、

それならばクリスマスは絶対に会いたいと

島崎は食い下がったのだ。

 “絶対デートするっ”と息巻いていた島

崎を思い出して吉光は小さな声で笑った。

 “そんなに必死にならなくてもオレは逃

げねーよ” 

 沈みゆく意識の中で吉光はそう呟いて、

眠りの中へ再び落ちていった。




             END





[*前]

あきゅろす。
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