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短編集・読み切り



 “寂しかった”なんて、不意打ちの言葉

で柄にもなくドキドキしたオレがバカだっ

た。

 島崎はこういう奴だ。

 きっとチ●ポから先に生まれてきたに違

いない。


「でもミツが気持ち良くなるように、俺が

 んばるよ?」


 そういう問題じゃない、というのをどう

説明すれば理解するのか。


「お前さ、セックスさせろって迫ってくる

 男にホイホイ股開いてオナニーの手伝い

 させる?」

「それは…断るけど。

 俺はミツじゃなきゃ勃たないし、一生懸

 命してもらって勃たなかったらショック

 だろうし」


 問題はそこじゃない!

 オレの質問の意図を汲み取れない島崎に

苛立つ。

 しかも余計な補足まで必要ないのだ、今

は。

 オレじゃなきゃ勃たないとか…そういう

不要な情報は必要、ない。

 胸の奥で少しずつ大きくなる心音を苛立

ちで誤魔化しながら畳みかける。


「じゃあオレが手コキしてお前が射精した

 らお前のケツに突っ込ませろって言った

 ら、オレに体触らせる?」

「えっ…えぇっ!?

 ミツ、俺に突っ込みたいの?」


 島崎は本気で驚いた声を上げる。

 それがオレの苛立ちに火をつけた。


「当たり前だろっ!

 俺だって男なんだから、突っ込んで喘が

 せたいって普通だろ!」

「えええぇぇ………」


 なんだ、そのドン引きしましたって声

は!

 ドン引きならオレの方がもっとずっと

前にしてるわっ!


「ゴホン。あのさ、ミツ。

 俺はケツで気持ち良くなれない人間だか

 らさ。

 ミツがどんなに頑張ってくれても、ケツ

 に突っ込まれたらイケないと思う。

 ゴメン」


 何が、ゴメンだ!

 真顔で謝るな、余計にムカつくからっ!


「オレに突っ込もうとすんな、バカ。

 ダチなら対等だろ。

 オレに突っ込みたいなら、まずテメーの

 ケツ解しとけ」

「ぐぅ…」


 目に見えて島崎が怯む気配がする。

 ようやく分かったか、と息を吐き出して

肩に入っていた力を抜いた。


「で、お前は指一本オレにお触り禁止でも

 泊まりたいわけ?

 一日に二回もオナニーするなら家帰って

 抜いたほうがいいんじゃない?」


 “とっとと帰れ、このオナ猿”と心の中

で毒づきながら尋ねる。

 まさか友達の家に泊まるというのにオナ

ニーはしないだろう。

 …いくらオナニーバカな島崎でもそこま

で常識知らずじゃない…はず。


「泊めて…下さい。

 オネガイシマス」

「言っとくけど、指一本触ったら夜中でも

 叩きだすからね」


 本気かと思いつつ、本気だぞという口調

で釘を刺す。

 そうなった時はもう何の躊躇もなく追い

出すつもりだ。

 オレだって自分の体の方が大事だから。


「泊めてくれるの?

 やった!

 じゃあちょっと家に電話してくる!」


 島崎はバッと立ち上がっていそいそと脱

衣所を出て行く。

 俺は思わず言ってしまった嫌味は取り消

せないと頭を抱えたけれど、本当に微塵で

もその気配を感じたら問答無用で追い出そ

うと心に誓う。

 本当に今日は色々ありすぎて疲れる。

 全てが全て自分のせいではないとは言わ

ないけれど、あれだけ二人きりになるのを

避けていた島崎をまさか自宅に泊めること

になるなんて、つい数時間前のオレなら考

えもしなかっただろう。

 今夜は何かがおかしい。

 本能的に感じる“何か”が頭の片隅にじ

わりと染み込んだ。




 夕飯は茹でたパスタにレトルトのソース

をかけたものとレタスを手でちぎりミニト

マトを飾っただけの名ばかりのサラダを出

した。

 どれをとっても手抜きだというのに、島

崎は美味しいを連呼してよく食べた。

 いくら手抜きとはいえ美味しいと言いな

がらパクパクとよく食べてくれれば気持ち

のいいもので、食後にシャワーを浴びた島

崎にアイスまで出してしまった。


「あ、アイスだ!

 俺、冬にコタツで食べるアイスも好きな

 んだよねー」


 二人でソファに座ってテレビをつけると

ハロウィン特集とかで夏でもないのにホラ

ー番組をやっていた。

 “本当にあった恐怖映像”というテロッ

プを読んだだけで島崎は顔を引きつらせ、

怯えた顔でチャンネルを変えようと訴え

るのを笑顔で却下した。

 あからさまに“合成”や“作り物”だ

というのに、いちいち怯えてオレの腕に

しがみついてくる島崎を見てひとしきり

笑うと苛立ちがスッと消えていった。


「あー、楽しかった」

「あれの!?どこがっ!?」


 番組のエンディングテロップを見ながら

満足して一息つくと、隣では完全に涙目の

島崎が信じられない!って顔でこっちを見

てくる。


「あれっていうより、お前を見るのが?」

「ミツ、すっごく意地悪な顔してる!」


 島崎は拗ねた顔でうっすら浮かんでいた

涙をパジャマの袖で拭う。

 突然のお泊りだったから当然着替えのな

かった島崎には、俺より背丈の近い父さん

のパジャマを貸している。

 それでも幾分か長さが足りなかったがオ

レのを貸すよりマシだったからそれで我慢

してもらうしかない。

 父さんが顔を見せに単身赴任先から帰っ

てくるのは再来週だから、今島崎に貸して

も問題はない。


「ねー、ミツ。もう寝よう?

 こんな怖い番組別に興味ないでしょ?」


 たった2時間の特別番組だったけど、そ

れだけで十分だと島崎が目で訴えてくる。

 言われてみればもう島崎の泣き顔で十分

気分は晴れたし、週末でテンション高めと

はいえ眠くないかと言われるとそうでもな

い。


「んー、じゃあ毛布持ってくるわ」

「俺も手伝おうか?」

「いいよ、別に。

 お前はテーブルの上を片づけといて」





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あきゅろす。
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