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短編集・読み切り



 ガコンガコン―…!


 レーンの上を滑った鉄球が何本ものピン

を押し倒す音がひっきりなしに響く。

 ハロウィンイベント中のボーリング場は

盛況で、全てのレーンで客がゲームを楽し

んでいる。

 今日が金曜日の夕方だということも客足

に大きく影響しているのか、客の多くは制

服を着た学生だった。


「ギャー!!やーめーてー!!」


 かくいうオレ達が遊ぶレーンでも悲鳴

が響く。

 絶え間なく投げられるボールが床に落

ちる音と10本のピンが倒れる音が響く

中ではそれほど目立たないのがせめても

の救いか。

 視線の先ではレーン脇のガターにボー

ルが吸い込まれるようにして落ちていき、

それを見届ける島崎が床にへたり込んで

いる。


「チッ。

 おい島崎、サボってんじゃねーぞ!」


 島崎とペアを組んでいる尾山がしゃがみ

こむ島崎の背中に怒鳴る。

 オレはその隣でコーラを飲みながら、心の

中で“変な欲を出すからだ”と舌を出した。

 そもそも今日はヒデの熱心な誘いがあって

皆でボーリング場に来たのだ。

 なんでも30日までのハロウィンイベント

中は入場料が割引され、5人以上の団体で来

店するとメンバー全員にハロウィン仕様のス

トラップがプレゼントされるらしい。

 集まったのは九条、ヒデ、尾山、野坂、島

崎、そしてオレで6人。

 高取は相変わらず気分がノらないとヒデの

誘いを断り、そうなると高取の傍にいたい岡

本が来る可能性はゼロになる。

 まぁヒデとしては5人以上メンツが集まれ

ばよかったらしく、断られたもののさして残

念がっているという感じでもなかったけど。

 そういうわけで6人で遊びに来たのだが、

個人スコアで争っても楽しくないからと今日

はチーム戦にしようとバカ二人が言い出した。

 というのも、このメンツでボーリングは何

度も来ていて大体どういう結果になるのかは

おおよそ見当がついてしまうからだ。

 運動神経がよく何でも卒なくこなす九条が

トップをとることが多く、次いでボーリング

を遊び慣れているバカ二人…もとい尾山と野

坂が続く。

 島崎も運動神経はいいほうだが本番に弱く、

遊び慣れているバカ二人にはどうしてもスコ

アで負けてしまう。

 とはいえガター率は遊びに誘ってきたヒデ

が一番高く、このメンツで来るといつもビリ

になるのは大体がヒデだ。

 オレはボーリングは付き合いで来ている

ようなものだからスコアは気にしていない。

 …うん、気にしてない。ビリでもないし。

 じゃんけんで決めた今日のペアは九条と

ヒデ、島崎と尾山、野坂とオレとなっていて、

偶然だがとてもパワーバランスがとれている。

 いや本当なら運動神経のいい島崎達のチー

ムが一番有利なはずだった。

 が、島崎がさっきから3連続でガターを決

めていて、島崎達のチームのポイントが伸び

悩んでいる。

 オレやヒデがちょっといい点数を出せれば

簡単に追い抜けるほど点差がないのだ。

 ボーリングを遊び慣れている尾山はさっき

からイライラしっぱなしで舌打ちを繰り返し

ていた。


「……」


 島崎は緊張すると10分の1も実力を発揮

できなくなる。

 そして今の島崎を緊張させている原因が何

かを知っているのはオレだけだ。

 実はチーム決めのじゃんけんの後で、オレ

は半ば強引に島崎の手によってトイレに連行

された。

 別にオレはトイレに用事なんてなかったのに

と口を尖らせると、オレに向き合った島崎が

肩を掴んできた。


「あのさ、もし今日俺のチームが勝ったらミツ

 に夏休みの続き、していい?」


 すごく真剣な顔で肩を捕まれたから何事かと

思えば言われたのがそんな言葉で、怒りより先

に呆れがきて掴まれた肩から島崎の手を引き剥

がして払い落とした。


「ハァ?却下」


 夏休みの続き、しかもオレに対してとい

うからには、あの危ういセックスもどきの

続きということだろうというのは瞬時に理

解した。

 しかしオレの許可なくやらかした島崎に

はその後で島崎が半泣きになるくらいの仕

置きはしたはずだ。

 それに懲りたからこそ、夏休みが明けて

からもそういう類の話はしてこないのだと

思っていたのに。

 …どうやら、全然懲りていなかったらし

い。

 チ●ポ脳、恐るべしといったところか。

 それとも事前にオレの許可をとれればい

いとでも思っているのか。

 確かにオレが許可したことなら文句は言

わないが、そもそもオレがなんでそれを許

可すると思うのか。

 しかも今日のチーム分けで一番有利なの

は島崎達のチームだ。

 仮に島崎がヒデとチームを組んで点数ト

ップだったとしても、オレがそんな条件で

島崎にケツを許すことはない。

 そもそもオレはそんなに安くない! 

 考えれば考えるだけイライラしてきて、

ムスッと島崎を睨む。

 しかしそれでも島崎はヘコたれなかった。


「じゃあ抜きっこならいい?

 ね、お願い!」


 顔の前で掌を合わせて拝んでくる。

 確かに性欲盛んなお年頃だが、そもそも

抜くだけなら右手だけあればいいわけで。

 セックスしたならわざわざ同性を選ぶ必

要もない。

 どうしても同性がいい!同性に突っ込み

たいんだ!っていうなら、高取に土下座し

たら岡本を貸してくれるかもしれない。

 なんせ高取は未だに不特定多数に岡本を

弄ばせている真性の鬼畜ドSなのだから。


「……」


 そこまで考えて、それが決して愉快な想

像ではないことに気づいて下唇を噛む。

 別に岡本を憐れんでいるわけでもなけれ

ば、高取に土下座する島崎の姿にショック

を受けるわけでもない。

 島崎が“やっぱりセックスするなら女が

いい”というなら仕方ないと思うけど。

 俺の知らないところで島崎が岡本に勃起

チ●コ突っ込んで気持ち良く果てる想像は

腹の底からムカムカする。


「あの…ミツ?」


 恐る恐るという様子で島崎の声がかかる。

 オレが不機嫌なまま黙り込んでしまった

から不安になったのかもしれない。


「もう夏休みのこと忘れたの?

 今度あんなことしたら本気で島崎のケツ

 にローションのボトル突っ込むよ?」


 オレの承諾なくケツに指を突っ込むばか

りか、抜かずに弄り続けた罪は未だに忘れ

ることはない。

 あの直後は島崎のケツ穴にを慣らさずそ

のままローションのボトルを突っ込むくら

い躊躇しないくらい怒り狂っていた。

 睾丸の玉一つ踏み潰されるのに比べたら

優しい位だと思う。

 それでもオレが思い留まったのは、オレ

が本気だと悟った島崎が泣きながら土下座

してきたからだ。

 抜きっこだなんて言いながら島崎の心の

中に隙あらばという考えがあることなんて

お見通しで、次があるようならオレは絶対

に許さない。


「そ、そんな…。

 ミツが嫌ならもう指入れたりしないし」


 島崎がしどもどろで言い訳する。

 が、そんなのわざわざ確認するまでもな

く当然の事なはずなのに。

 しかも目が泳いでいるのを見るに、やは

り頭の片隅にはそういう邪な欲があったら

しい。


「…九条に個人スコアで勝てたら考えても

 いいけど」

「えっ、いや、それは…っ!」


 島崎の顔が引きつる。

 九条はほとんどストライクかスペアしか

とらない。

 誘われでもしなければボーリングに行く

こともないだろうに、やはりそのあたりは

才能とセンスなのかもしれない。

 その九条のスコアを抜くなんて今の島崎

には奇跡でも起こらなければ無理だろう。

 そもそもあんなことをしでかしておいて、

オレがそう簡単に島崎の誘いに乗るなんて思

っている方がおかしいと思うんだけど。

 しかし島崎は何としても俺にうんと言わせ

たいのか、ない頭を絞ってオレを説得しよう

としているらしい。

 その情熱が少しでも勉強に向けられれば、

もうちょっとテストでマシな点数をとれるよ

うになると思うのだが今は黙っておく。





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