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短編集・読み切り



 満足したなら早く拘束を解いてくれない

かと思う背後で、衣擦れの音とビニールを

破るような聞き慣れない音が響いた。

 麻痺した思考にじわじわと焦りや戸惑い

が戻りかける頃、再び濡れた何かが拡げら

れていたそこに押し当てられた。

 その何かを論ずる暇もなく一方的な力で

ズブリと奥まで一気に押し込められた。

 内臓を突き上げられる感覚に一瞬息が詰

まって目の前がチカチカする。

 今まで以上の圧迫感に今更ながら異物を

体外に出してしまおうとするが、そんな細

やかな体の動きなど気にする風でもなくゆ

っくりとその異物は2回か3回ほど中の具

合を確かめるように動く。


「あぁ…センセ、ゴメンね?

 ちょっと切れちゃったみたいだ」


 僅かに上気した吐息を含む声。

 ゴメンと言葉では言いながら、冗談では

済まない圧迫感をもつ異物を動かしている

あたり一向に悪びれる気配はない。

 腰のあたりを掴まれ、一際ぐんっと固い

異物を押し込まれたあたりでようやくそれ

が“何か”察した。


「あぁっ、嘘、だっ…」

「嘘ってなに?

 涼しい顔しながら、やっぱり解ってなか

 ったんデショ?

 子供の頃、俺がこういうことされてたっ

 てコト」


 声が上から降ってくる。

 息を詰めたような吐息が耳元にかかる。

 出し入れされる濡れた異物はどちらのも

のとも分からない体温で温められていき、

奥まで埋められたそれはその形に慣らした

いように浅く引いては腰を打ちつけてくる。

 信じられなかった。

 信じたくもなかった。

 だがその状況はただ一つの答えしか許し

てはくれなかった。


「でもさ、今ちょっとだけクソ叔父の気分

 も解っちゃったかも。

 嫁や世間体を気にして逃げ出したヘタレ

 糞野郎だけどさ、こうやってセンセを組

 み敷いて突っ込んで気持ちいいと思っち

 ゃう俺も大概だよなぁ」

「もう抜いっ、あぅっ…!」


 生々しく現実をつきつける言葉に、もう

聞きたくないと首を振る。

 体の奥まで貫かれた痛み以上に、信じた

くない現実が心を打ちのめした。

 肉体的な痛み以上に保っていたかった理

性が容赦なく削りとられて、それでもなお

ズキズキと痛む傷口が現実から目をそらす

ことを許してくれない。

 彼が何者なのか、今更分かっても仕方が

なかった。

 解ったところで時間を巻き戻せる訳がな

い。

 今の状況を打破できる訳でもない。


「男に犯されるってこういう事。

 解った?」


 この悪夢が終わるなら何でもいいと、と

にかく頷いた。

 彼の気が済めばきっと解放される。

 いつも無口な彼は何事にも興味なさそう

な短い返事しか返してこない。

 そんな彼が饒舌になるのは破壊や残虐な

衝動にかられた時、古傷に触れてしまった

時だ。

 でもそんな分析は今は無意味で、彼が一

刻も早く飽きて投げ出してくれるのを待つ

しかない。

 飽きれば終わる。

 これ以上彼を刺激しなければ。

 それは確信に近かった。





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