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短編集・読み切り



「あの日さ、最初は嫌々だったけどミツの

 顔とか表情とか…そういうの見てたらな

 んかムチャクチャ可愛いなって思ってさ。

 ミツには怒られたけど、ホントはもう少

 しミツのそういう顔見てたかった」


 “親友”だと躊躇もなく言ったくせにと

心の中で毒づいたけど、男に対して“可愛

い”なんて褒め言葉だと思っているのかと

も思ったけど、島崎を憎み切れない感情が

顔を出しそうで必死に押さえつける。


「…白状するとさ、あの時のミツの表情と

 か声とか思い出して抜いたことあるよ、

 何度か。

 そのくらい可愛かったから」


 顔を背けたまま何度か瞬きを繰り返して、

唐突な告白にじわりじわりと胸の奥から熱

が舞い戻ってくる。

 浮かれるなと釘を刺しても今の体勢では

島崎の体が近すぎる。

 吐息をかけようと思えばかかるような距

離で島崎に見下ろされ、体温も匂いもほと

んどゼロ距離だ。


「ミツは気持ち悪いって思うかもしれない

 し、勝手にオカズにしたのは謝る。

 俺ずっと自分はノンケだと思ってたけど

 ミツを可愛いって思ったのも本心だし、

 これからずっとミツに触れなかったとし

 てもあの日のミツの顔とか声とかまたオ

 カズにするかもしれない」


 ズリネタにしますって宣言されて喜ぶよ

うな奴がいるなら会ってみたいと思う一方

で、俺だって島崎で抜いたことがあるのだ

から声を大きくして島崎を非難することな

んてできない。

 何より、こんな島崎は本当に調子が狂う。

 いつものようにヘラヘラ笑ってオレに怒

られてしょぼくれていればいいのに、どう

して今日に限ってこんなに強引なのか。


「だけど誓ってミツをダットワイフとか岡

 本の身代わりにしようなんて思ったこと

 は一度もないよ。

 まだ自分がホモなのか分からないんだけ

 どミツのこと前よりずっと可愛いって思

 うようになったし、ミツが許してくれる

 ならうんと時間かけてミツのこと気持ち

 良くしてあげたい。

 俺の気持ちは受け入れてくれなくてもい

 いけど、悲しいから誤解だけはしないで

 ほしい」


 もうそろそろ解放して欲しい。

 もう限界だ。

 心臓がパンクしそうで、頭の中から花が

溢れそうで、都合のいい解釈が一人歩きを

始めてしまうから。

 顔を見たくなくて背けていたのが、顔を

見られたくなくて島崎の顔をまともに直視

できない。


「…ねぇ、ミツ。聞いてる?」


 顔を背けたままのオレの顔を覗き込んで

こようとした島崎の吐息が耳にかかり、ピ

クッと肩が震えた。

 そして間もなく耳に熱が広がる。

 よりによって島崎が絶対に見逃さないで

あろう状況下で。


「耳、赤いよ?」

「るさいって言ってるだろっ。

 もう重い、どけよっ」

「ミツが俺の言ったこと理解して、了承し

 てくれたらどくよ」


 怪我人なのにとさんざん泣き言を言った

くせに、体格差は埋めがたいのか俺は島崎

のベッドに縫い付けられたまま動けない。

 しかもオレの変化に気づいたせいか島崎

の声に余裕が見え始めたのが余計に悔しさ

を刺激する。





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