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短編集・読み切り



「じゃあミツの家でもいいよ」

「ふざけんな」


 この調子の島崎をオレの家に連れて行っ

たとしたらいつまで居座るか分かったもの

ではない。

 オレの部屋でさんざんダラダラした挙句、

最後には島崎の家まで送れと言い出しそう

で、とてもじゃないが承諾できない。

 途中の病院かどこかで放り出そうか。


「島崎、保険証は?」

「持ってるわけない」

「アホ…」


 ヘラヘラ笑う島崎の頬を思いっきり抓っ

てやりたかったが、それでバランスを崩さ

れたら支えているオレも危うくなりそうだ。

 一度肩を貸してしまった以上は島崎を家

まで送り届けなければならないんだろうか。

 考えるだけでかったるい。


「この貸しはデカいからな」

「わかってるってー」


 機嫌のよさそうな島崎はヘラヘラ笑って

いるけれども重い島崎を支える俺の苦労を

ナメていると思う。

 島崎が泣き言を言い出すくらいのお返し

を元気になったら請求してやろう。




「あー、重かったっ!!」

「のわっ!?」


 家まで送ったらそのまま帰ろうと思った

のに調子こいて部屋までとか寝言ぬかす島

崎を殴りたかった衝動を島崎をベッドへと

蹴りやることで少しだけ和らげる。

 しかし長時間密着したまま島崎を支え続

けた体力や時間が戻るわけではなく、あと

2〜3発は殴ってやらないと気が済まない。

 そんな元気はもう残っていないけれども。


「ミツ、俺怪我人…」

「うっさい、バカ島崎。

 調子に乗りやがって」


 ベッドから顔を上げて恨めし気にこっち

を見る島崎のことなど気にも留めずに椅子

にドカッと座る。

 軽く汗をかいているのはなにもここまで

密着して歩いてきたからではない。

 重い荷物を抱えなきゃならなくなった運

動分だ。


「あのさ、ミツ」


 ゴソゴソとベットの上で態勢を整えた島

崎はいつの間にかベッドの上で正座してい

て、シャツの衿元に指を突っ込んで風を送

っていたオレは首を傾げた。

 一体何をしているのかと。


「俺、あれから色々考えたんだよね。

 でもなかなかミツが捕まんなくてさ。

 一緒には遊んでたけど、ヒデ達もいたか

 ら」


 まぁ真っ先に遊びに誘ってくるのはヒデ

だから当然といえば当然だ。

 別に島崎を特別避けてきたわけではない

し、島崎も言うように一緒に遊ぶ中に島崎

だって混ざっていた。

 一見すれば岡本とあんな風に関わる前と

何も変わらなかったはずだ。

 オレの心の内以外は。


「色々って、何?」


 平静を装って興味なさそうに尋ねる。

 肝心なところを言わずに何を察しろとい

うのかと暗に突きつける。

 心中はすでに穏やかではないけれど、鈍

感な島崎はそんな僅かな変化になど気づき

はしないだろう。


「色々って…色々だよ。

 岡本のこととか、ミツが怒ったこととか

 …そういうの」


 島崎はやっぱりオレの変化になど気づい

た様子はなく、途中まごまごと言いにくそ

うに濁して口をつぐむ。





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