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短編集・読み切り



 ガッシャーン!!


 空気を切り裂いた音は、オレが考えを

巡らせる暇さえ与えなかった。

 もうピクリとも動かなかったデカ男に

3球目がのめり込み、すっかり戦意喪失

していたデカ男は一瞬だけ呻いてそれき

りだった。

 なぎ倒された机の影でデカ男がどうな

っているとか、一番の至近距離で見てい

たであろう高取にその内の1球も当たら

ないなんてどんな偶然だとか考える気力

も失せていた。

 もし目の前で起こったことを意図的に

引き起こせる存在がいるとするなら、そ

れは神サマとか悪魔とかいったものに違

いないだろう。

 そういったものの干渉を受けたのだと、

無理矢理にでも納得するしかなかった。

 もう動かないデカ男を押さえつけていた

高取がゆっくりと立ち上がった。

 デカ男を見下ろすその顔にはおよそ人間

らしい憐憫や慈悲といったような表情は浮

かんでおらず、怒りすら突き抜けたような

無表情で鬼や修羅という言葉が相応しいよ

うに思えた。

 人一人は容易く殺せそうな無表情でデカ

男を見下ろしていた高取の目線が持ち上が

ってオレ達をとらえる。

 その目はいつも通りの面倒くさそうな気

だるげなものに変わっており、まるで別人

のような空気を漂わせていた。


「お前ら、さっさと行け。

 見つかったら面倒だぞ」

「お、おぅ…」


 威勢だけが取り柄のバカ二人ですらそう

答えるのがやっとな様子で、高取の言葉に

促されるような形で島崎を支えながら教室

を後にする。

 あれだけの騒ぎの中でもピクリとも動か

なかった岡本が一瞬だけ気になったけれど

も島崎に肩を貸した状態のオレに出来るこ

となど限られているし、この状況で口を開

こうとは思えなかった。

 高取を変に刺激するより、面倒くさそう

にしながらも結局は面倒見がいい高取の親

切心に賭けるしかなかった。

 廊下を歩く間も皆押し黙って誰も口を開

かない。

 九条はともかく、いつも騒がしいヒデや

バカ二人が静かなのが衝撃の余波を如実に

物語っていた。


「俺らここで帰るわ」

「あんま酷かったら病院行っとけよ」

「へいへい。じゃーな」


 階段付近で昇降口に向かうバカ二人と別

れ、次いで九条の荷物を取りに行くからと

いうヒデ達とも別れる。

 ヒデは廊下の壁に背中を預けてへたり込

んでいたけれども、そうして九条を待つく

らいは出来るからとオレ達に手を振った。

 あの様子から見て、ヒデはおそらくこの

まま病院行きだろう。

 問題なのは、一見大丈夫そうに見える島

崎がどの程度の怪我かってことくらいだ。

 というか、いい加減に重いからどこかそ

の辺に放り出したい。


「チッ、なんで居ないんだよ」


 養護教諭のおばちゃんがいればさっさと

置いて帰ったのに、しっかりと施錠された

保健室のドアはピクリとも動かない。

 もう仕事は終わったからとさっさと帰っ

てしまったんだろうか。


「居ないものは仕方ないって。

 ミツ、俺の家まで付き合ってくれる?」

「やだよ。

 島崎の家ってオレの家と方向逆だろ」


 開かない扉を待っていても仕方ないので

ゆっくりとした足取りだが昇降口に向かう。

 その間に島崎が寝言をほざいた。





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あきゅろす。
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