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短編集・読み切り



「えへへ…」

「調子にのんなよ。今だけだからな」


 無駄に図体のデカイ島崎が体重をかけて

くるとやはり重い。

 どこか適当な場所にさっさとポイして帰

ろう。うん。

 と、机や椅子がなぎ倒される音とほぼ同

時に何か重いものが床に落ちる鈍い音が派

手に響いた。

 そちらに視線を向けるとデカ男が乱され

た机の間に倒れていて、初めて反撃に出た

であろう高取に重い一撃を腹にもらうとこ

ろだった。


「ぐぅッ…!」


 何とも形容しがたい、重く引き潰したよ

うな呻き声が教室に響く。

 高取が普段から筋力トレーニングなんて

しているのを見たことはない。

 だがもう通うのをやめてしまったとはい

え道場に通っていただけのことはあるのか、

その拳の威力は充分にデカ男の威勢を削ぐ

ものであったことは間違いないようだった。

 九条が未だに高取に一目置いているのは

やはりその辺りの事も関係しているのだろ

う。

 悶々と腹を押さえながら呻くデカ男の様

子にその一撃であっさりと勝負はついたか

に思え、だとすれば長居は無用と体重を預

けてくる島崎を支えて教室を出ようと…し

た。


 ガッシャーン!


「ぐぎゃあああ!!」


 ガラスの割れる盛大な音とデカ男の先程

とは比べ物にならない悲鳴が空間を揺るが

す。

 神サマの存在なんて信じたことはないの

だけど、岡本の心身を壊してしまうほどの

暴行を加えたデカ男に天罰が下ったとしか

思えなかった。

 せめてもの慈悲でガラスを割った分だけ

ボールの威力は半減しているかもしれない

が。


「うわ、マジかよ…」


 肩を貸している島崎の小さな呟きは密着

している今だからこそ漏らすことなく鮮明

に拾え、偶然に驚いているようにもデカ男

に少しばかり同情しているようにも聞こえ

た。


「自業自得でしょ。

 オレはあんなのより、よっぽど岡本の受

 けたダメージの方がデカイと思うけどね」


 島崎に指を突っ込まれた時のことが蘇る。

 気を許していた島崎の指でさえあれだけ

拒否反応が出たのだ。

 いくら岡本が犯られ慣れているとはいえ、

おそらく準備もなしにあの体格に比例した

勃●デカチ●ポを強引に突っ込まれた衝撃

と激痛はいかがなものだろうと想像する。

 オレだったら突っ込まれる前に消火器で

思いきり頭をぶん殴って逃げるだろう。

 そういう痛みだと思う。

 思いがけず天罰が下ったのも見届けられ

てちょっとスッとしたし、さっさと出てい

こうとしたところで信じられない音が耳に

届いた。


 ガッシャーン!!


 …え?


 高取に押さえつけられながらも痛みに呻

いていたデカ男の声は二度目のガラスが割

れた音の直後に消え失せんばかりに弱々し

くなった。

 当たり所が悪く、呻くことすら出来なく

なったのだろうか。

 それでもバタバタと床の上を転げ回る気

配がしていたが、それも長くは続かなかっ

た。

 まさか、という気持ちと割れた窓ガラス

を見ても未だに信じがたい気持ちが往復す

る。

 こんなに短時間に、しかもほとんど同じ

場所めがけてボールが飛んでくる確率なん

てどれほどあるのだろうか。

 ましてここは3階だ。

 たとえボールが高く打ち上げられたとし

ても、重力に引かれアーチを描くように飛

ぶはずだ。

 そのボールがデカ男を呻かせるような威

力で飛び込んでくる可能性など、そもそも

皆無に等しいのに。





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