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悪魔も喘ぐ夜 Character Episode
*


 淫魔は基本的に兄弟が多く、パーティと

いう名目がなければ親の兄妹やその子供、

従兄弟など比較的近しい親族であっても一

生顔を合わせないということも多い。

 さらに本家筋から外れた分家ともなれば

クラウディウス家の直系など雲の上のよう

な存在だ。

 俺が生まれ育った家も、それに漏れず2

代前がクラウディウス家の直系で生まれた

兄弟だ。

 その兄弟が婿養子になったことでクラウ

ディウスの名は名乗っていないが、血を辿

ればクラウディウスに行きつく家の者とい

うことになる。

 だからクラウディウス本邸のクリスマス

パーティには分家筋の者として毎年欠かさ

ず参加していたし、欠席する等考えられな

いことだった。

 クラウディウス本家側も繋がりの確認だ

けでなく、血の繋がった淫魔の中から有能

だと思う者がいれば手元に引き寄せて育て

さらなる発展に尽くさせるという目的もあ

るのだと聞かされたことがある。

 …そんな家に、人間の体液を生理的に受

け付けない自分のような人間が生まれ落ち

てしまったことは悲劇そのものだった。

 俺自身が、ではない。

 両親、兄弟、そして何よりもクラウディ

ウス本家の血を引いている祖父にとって、

そんな面汚し以外の何物でもない自分のよ

うな孫が生まれてしまったということが悲

劇だった。

 背中の大きな十字傷はいつついたものな

のか、記憶の中にはない。

 ただ熱を出して生死を彷徨ったことだけ

はかろうじて思い出せる一番古い記憶とし

て頭の隅にひっかかっていた。

 物置の隅で毛布にくるまって、そのまま

死ぬんだろうとぼんやりと考えていた。

 両親にとって俺は空気で、兄達はそれに

倣い、弟達にとってはストレス発散のため

の玩具だった。

 背中の大きな斜めの十字傷は単純に×な

のだろう。

 “いらないもの”“必要のない物”にマ

ジックで×をつける…それと同じように。

 体液を受け付けない体質の俺は、他の兄

弟と違って親が決して安くはないサプリメ

ントを買い与えてくれなければ簡単に餓死

していただろう。

 わざわざ背中など斬りつけなくても、何

も与えなければ両親は簡単に俺を殺せた。

 何もせずとも簡単に処分できたのだ。

 そう考えるとこの歳まで見放さずに育て

てくれた両親には頭が上がらない。

 …自分のような淫魔は家族にも、一族に

とっても“いらない存在”なのだから。



 そんな出来そこないの自分がどうして幸

運にも縁遠いクラウディウス本邸のクリス

マスパーティに出席できたのかと言えば、

ただの偶然の産物だった。

 その年のインフルエンザは厄介で、12

月の中旬には暮らしている地域に蔓延して

いた。

 そんな人間の体液を食料としている兄弟

の多くにも病原菌は蔓延し、またまだ多く

の人間から食料を採取できない弟たちはパ

ーティに出席できるような年齢でもなかっ

た。

 両親にとっても祖父にとっても、それは

苦渋の選択だっただろうことは容易く想像

できる。

 クラウディウスの血を連ねながら本家主

催のパーティに欠席するなんてことはあり

えない。

 それは暗にクラウディウス家の恩恵を足

蹴にする行為であり、淫魔社会においての

地位や影響力を失う事と同意だからだ。

 そういう事情を抱えた中でその年に問題

になったのがパーティの出席者だ。

 クラウディウス家直系の祖父、その息子

である父、そして成人した長兄が例年パー

ティに参加している顔ぶれだった。

 しかしその年猛威を振るっていたインフ

ルエンザに兄弟たちは高熱を出して倒れ、

また熱だけは下がってもマスクを手放せな

い程咳き込んでいる者がパーティに出席す

ればパーティ参加者に感染させかねないと

祖父や両親は頭を悩ませていた。

 イブの夜、熱にうなされていた長兄の氷

枕を取り換えに長兄の部屋に訪れていた。

 次は次兄の部屋だと息つく間もなく部屋

を出ようとしたところで長兄の部屋を訪れ

た父とすれ違う。

 会釈だけして横を通り過ぎようとして、

呼び止められた。





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あきゅろす。
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