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悪魔も喘ぐ夜 Character Episode
*


 ゴムベラを使って丁寧に流しいれている

と麗が冷蔵庫を開いたままこちらを振り返

った。


「あれー?これなんだろう。

 今年はケーキだけじゃないの、お兄ちゃ

 ん?」


 ギクッ!

 ま、まさか見つかった…?


 昨日の夜にこっそり作ったものは冷蔵庫

の奥の方に隠したはず…と何でもない顔を

して返事をしようと思ったけど、その手に

はしっかり隠しておいたものが握られてい

た。


「え、えーっと…」


 卵白ぐらいどうして冷蔵庫から出してお

いてやらなかったんだと今更後悔しても遅

い。

 場所をとらないように、目立たないよう

にと必要な数しか作らなかったから家族で

食べようと思ってなんて言い訳は苦しい。

 どう答えようか考えあぐねている俺と手

元のチョコレートを交互に見た麗はちょっ

と考え込む間を置いた。


「僕が食べてもいいもの?」

「そ、れはちょっと…」


 小首を傾げる麗にしどろもどろな感じで

答えて視線をそらす。

 麗は甘いものが好きだ。

 でもそれは甘くないから美味しくないと

思う…とは言えない。

 明らかに既製品ではないそれを誰にあげ

るのかと言われたらストレートには答えら

れない。

 …そもそも受け取ってくれるのかもわか

らない相手だから。


「ふーん?」


 でもそんな返事にもならないような返事

に麗は何かを察したようにそれ以上は言及

してこなかった。

 取り出したそれをさっさと戻して卵白だ

けが入ったボウルを出して冷蔵庫の扉を閉

める。

 俺が洗っておいた泡立て部分の部品をハ

ンドミキサーに取り付け、濡れた布巾を敷

いた上にボウルを乗せてボウルを回しなが

らハンドミキサーでメレンゲを作り始め

た。

 俺も手を止めたらいけないと卵黄と湯煎

したチョコレートを泡だて器で混ぜ始めた

けど、なんとも言えない無言の空間が息苦

しい。


 麗はここ最近あまり笑わなくなった。

 以前は困るほどにくっついてきたのに、

時々俺自身もどうしたらいいのか分からな

いほど麗との距離を感じる。

 何一つ変わっていないはずなのに麗だけ

が…いや、違う。

 俺が何も言ってないだけで、麗は察して

いるのかもしれない。

 俺と兄貴のことを。





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