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悪魔も喘ぐ夜 Character Episode
*


 ジタバタと暴れるだけ無駄で、むしろ赤

みがさしてから戻った莉華の目の輝きが怖

かった。


「ねぇ、恵?

 キスだけだったらいいんですわよね?」

「へ…?」


 初耳だ。

 そもそも“いい”なんて言った覚えはな

いのにどうして莉華の中ではそういうこと

になっているのかわからない。


「だって今、嫌って言わなかったじゃあり

 ませんの」

「い、言わなかったけど“いい”とも言っ

 てないよね?

 そもそも私、莉華をそういう意味で好き

 なわけじゃないし」


 言い訳…というか言い分を並べてみたけ

れど、それを聞く莉華の耳にどうも届いて

いるのか不安だ。

 だって全然表情が曇らない。


「でもキスしても嫌がらなかったじゃあり

 ませんの」

「それは驚いてたから動けなかっただけだ

 し」

「キスプリだって撮ったじゃありませんの」

「あ、あれは莉華が強引に…!」


 カメラの前に立たされて半ば強引に唇を

奪われてしまった。

 一応抵抗はしたのだけれど、ファースト

キスどころかセカンドキスまで攫われてし

まってその後何枚か自動でシャッターが下

りる間はショックによる脱力で動けなかっ

た。

 …その後その時撮ったキスプリを莉華が

携帯やノートに貼りまくって“新聞部の部

長と副部長はデキている”という噂にこれ

以上ないレベルで真実味を与えてしまった

という笑えないオマケ付きだ。


「じゃあ、キス、しますわよ?」


 至近距離だったせいで“え?”と尋ねる

暇さえなかった。

 先ほどまで触れるだけだった唇が吸われ

て小さく体が震える。

 降りてきた唇は優しくあたしの唇を角度

を変えながら何度も吸い上げる。

 幼い頃から知っているはずの莉華の唇の

柔らかさや唇の間から零れる吐息の熱がま

るで別人みたいで、すごくドキドキする。

 相手が莉華だというのに嫌悪感がないど

ころかちょっと気持ちいいと感じてしまっ

て、そんな自分自身の気持ちに更に驚く。

 ただの悪戯ではない、ちゃんとした恋人

同士がするようなキス。

 もし目の前にいるのが本当に恋人だった

としたら、もっとずっとしていたいと願っ

ても不思議じゃない。

 だけど相手は莉華で、従妹という以前に

女同士で。

 それなのにそんなあたしの戸惑いも驚き

も繰り返し吸い付いてくる莉華の唇に溶か

されてしまいそうな…そんなふわふわとし

た感覚に包み込まれていた。


「…」


 莉華の唇が呼吸のタイミングで離れた時

に緊張して肺の中に留めていた空気を長め

に唇の間から吐き出す。

 莉華はそんなあたしを見下ろしながら満

足そうにニッコリと微笑んだ。


「…ほら、嫌がらないじゃありませんの」

「うっ…そ、それは…」


 指摘されてからようやく気付いてばつが

悪くなる。

 なんで、と言われても私自身にもわから

ない。

 もう莉華とキスすることに慣れてしまっ

たような、抵抗しても無駄だと悟ってしま

ったような…。

 どちらにしても結構危ない症状だと自分

でも思うけれど、だからといって莉華と同

じ“好き”でいるかと言われたらそれは違

うとハッキリ答えられる。

 キスをしている間は確かに気持ち良かっ

たけれど、じゃあそれに付随するべき感情

が伴っているかと考えたらそれはないと…

思う。

 でもきっと世間一般の従姉妹や幼馴染に

抱く感情とも違うだろうから、うまく言葉

に言い表せない。





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あきゅろす。
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