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悪魔も喘ぐ夜 Character Episode
*


「あら、来ましたのね?

 今からビーチバレーをしてもらうんです

 けど、特別ルールを追加しようと思いま

 すのよ」

「特別、ルール…?」


 いつの間にかコートまで出てきていた大

倉先輩がものすごい笑顔で俺達にそう告げ

た。

 この“ものすごい”というのが本当に厄

介で、大倉先輩がこういう風に笑っている

時は、俺にとってよからぬことを思いつい

たサインだ。

 ましてビーチバレーなんていう対戦競技

にどんな特別ルールを追加しようというの

か。

 …嫌な予感しかしない。


「まずは今夜の宿の部屋割りをいったん白

 紙に戻します」

「って、えええええぇぇぇぇっっっ!?

 いやいやいやいや!

 だってあんなに揉めて、ようやく決まっ

 た部屋割りじゃないですか!?

 それを白紙とか…っ」


 この島でロケが決まり、しかも夏休みの

なので1泊しようという企画だったのだ。

 それにあたっての部屋割りは絶対にスタ

ッフに囲まれた部屋がいいと…直球で言う

ならクロードや兄貴や麗の隣は嫌だと断固

と主張したのだ。

 本来は撮影外とはいえ、いつどこでシャ

ッターチャンスを狙われるのかもわからな

いのにいつ不埒な事に及ぶかもわからない

人の隣室は嫌だと口を酸っぱくして言って、

誰の隣にもならないからちょっかい出すな

よと3人に牽制をかけて、ようやくその望

みどおりの部屋割りになったというのに。

 しかし抗議したいのは俺一人だったよう

で、大倉先輩はそんな俺に掌を向けて制し

た。


「残念ながら宿のほうに急な予約が入って

 しまったそうなんですの。

 どうしても断れないからと頭を下げられ

 ては、大人数のこちらとしても嫌とは言

 えませんわ。

 足りない部屋数はここから少し歩いたと

 ころにある別の…もう少しランクの高い

 宿に連絡をとって足りない人数分を確保

 してもらったらしいんですの。

 それでも、どうしてもどーしても嫌なら

 大広間で雑魚寝でも構わないと宿のご主

 人はおっしゃってましたけど…こんな真

 夏日の撮影でヘトヘトになっているスタ

 ッフさん達に雑魚寝をお願いする気です

 の?」

「っ…!」


 “どうしても”を強調して繰り返す大倉

先輩に“それでも”なんて口が裂けても言

えない。

 だけど、でも、だとしたら…。


「じゃあ俺の部屋は、角部屋で隣はカイル

 がいいですっ」

「断る」


 泣きたい心持ちで、もう我儘だと非難さ

れてもいいと口走ったのに、息つく間もな

く冷たい声に申し出を叩き斬られた。

 他の誰でもないカイル本人に一刀両断さ

れてしまっては、今夜の俺の身の安全はど

うやって確保すればいいと言うのか。

 カイルの腕を掴んで頼むよ…と言おうと

したのにタッチの差でそれを避けられ、カ

イルは鬱陶しげに俺を睨みながら淡々とし

た口調で続けた。


「もし仮にそうなったとして、俺がクロー

 ド様を差し置いてお前の隣室になどなる

 はずないだろう。

 お前の隣室に決まったとしても、クロー

 ド様と部屋を交代させて頂く」


 『これ以上俺を巻き込むな』


 怒気の炎が揺らめく眼差しで俺を刺しな

がらカイルは暗黙の内に告げてくる。

 唯一の逃げ場だったカイルにすげなく断

られてしまっては俺の安眠は保障されない

も同じだ。


「大倉先輩…その、新しい方の宿に空室っ

 て…」

「ありませんわ。

 スタッフの方々が泊まるのでいっぱいい

 っぱいですのよ」

「じゃあ…先輩達の隣の部屋なら空いてま

 すよね?」

「まぁ、ダメですわよ。

 夜は恵とイチャイチャするんですから遠

 慮してくださいな」

「………」


 逃げ場を求めて白羽の矢を当てたのに、

“自分から女子の隣室がいいと言い出した”

ことじゃなく別の理由で断られるとは思わ

なかった。

 イチャイチャ…するんですか。へー……。

 逃げ場がないと悟った思考が現実逃避し

始める。

 やっぱり今夜は野宿かなぁ…なんて考え

が頭の隅を過った。





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あきゅろす。
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