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悪魔も喘ぐ夜 Character Episode
*


 元々麗が演じた役は劇中では主役の父親

だったらしいのだが、ぱっと見で日本人の

面立ちではない麗を代役として立てること

が決まったことで運命を司る神様みたいな

位置づけになったらしい。

 けれどそれのほうがいいと脚本担当が考

えたのならばそれで良かったのだと思うし、

誠一郎から聞いた限りで言えば好評だった

上に予想以上の反響があって安田さんを始

めとして演劇サークルの面々には感謝され

ているようだ。

 公演直前で練習もあまり出来ない状況の

中で麗は二度目の練習日にはセリフも動き

も完璧にしてきたそうで、もし演劇に興味

があるようであれば演劇の活動を主にして

いる団体にそれとなく誘ってくれないかと

いう話も誠一郎経由で耳にした。

 麗がそっち方面に興味があるなんて初耳

だったので、俺は驚きながらも麗の反応次

第でと返事はしたのだが。


「そんなに謙遜しなくてもいいのに。

 麗は子供の頃から可愛かったけど、今で

 はすっかりカッコ良くなったから舞台映

 えもするだろうし。

 それにセリフも立ち振る舞いも完璧だっ

 たってサークルの人達も褒めてくれてた

 んだろう?」


 麗は瞬きをした後でちょっと照れたよう

に目を伏せた。

 俺が手放しで麗を褒めちぎった時には昔

から同じ反応をしていたから、俺もふっと

懐かしくなって目元が綻んだ。


「僕が覚えやすようにセリフも振り付けも

 調整してくれたからだよ。

 でも兄さんが褒めてくれるなら、頑張っ

 た甲斐もあったかな」


 えへへと笑う麗はとろけるような笑顔で、

幼い時の顔とだぶって見えた。

 容姿こそ母方譲りの金髪で天使や王子に

例えられる事も多いけれど、それ以前に俺

にとっては大事な弟なんだなとしみじみ実

感する。


「そんな舞台なら俺も見たかったな。

 どんな内容だったんだ?」

「うーんとね、一人の男の人生の岐路につ

 いての話かなぁ」

「ふーん?」



 麗の説明してくれた物語はこうだった。

 主人公は25歳の求職中の男性。

 最初の会社はいわゆるブラック企業で3年と

もたずに退職。

 同棲中の恋人はOLとして働いていて、その出

勤を見送りつつハローワークに通う毎日。

 そんなある日のこと、ハローワークの帰り道

の踏切で立ち往生して困っている老婆を助ける。

 失職していることで同棲中の恋人とは口喧嘩

が絶えなくなっている生活の中で人助けは主人

公自身にとっても良い影響を及ぼした。

 それでもなかなか新しい就職先を見つけるこ

とは難しく、不採用の連絡が立て続く。

 そんな折、以前助けた老婆と再会して家に招

待される。

 実はこの老婆は資産家の夫を亡くした未亡人

であり、主人公と年の近い孫娘がいた。

 その顔合わせの意図があったのだと知ったの

は帰宅間際で、帰り道を歩きながら主人公は迷

う。

 気が強くバリバリと仕事をこなして自分を養

っている今の恋人。

 穏やかな笑顔が印象的な箱入りお嬢様の孫娘。

 困った時に手を差し伸べてくれる人という印

象をもつ老婆は孫娘との交際を主人公にそれと

なく勧めた。

 もちろん老婆は主人公に現在同棲している恋

人がいることを知らない。

 ただただ奥手な孫娘の将来を気にかけての行

動だ。

 主人公は迷う。

 早く就職してくれと口喧嘩が絶えない今の恋

人とは今まで苦楽を共にしてきた。

 けれどどれだけ面接を受けても採用通知をも

らえない自分は今や恋人にとって重荷でしかな

い。

 今こそ解放してやるべきなのではないか。

 別れ話をして新しい恋の可能性を作ってやっ

た方が彼女にとっては幸せなのではないか。

 幸い、老婆の娘夫婦であり孫娘の両親にあた

る人達は会社経営を引き継いでいる。

 縁故採用であれば不採用通知を送られること

はないだろうから、孫娘にも嫌な思いをさせず

にすむ。

 そうしたら皆がそれぞれ幸せになれるのでは

ないか…主人公はそういう結論に達した。

 主人公は帰ってすぐに恋人に別れ話をもちか

けた。

 恋人は最初こそ戸惑った様子をみせたものの、

主人公に何度も説得されて別れ話を承諾する。

 実家に帰った主人公は孫娘と順調に交際を続

け、やがて結婚し望み通りの縁故採用で就職も

無事に果たした。

 けれど就職したのはいいものの名の知れた上

場企業だったこともあり、上司や先輩はおろか

同僚や後輩に至るまで有名大学卒業の経歴をも

つエリート集団だ。

 なんとか仕事を回そうとするものの空回りし

て周囲に迷惑をかけるミスを重ね、遂には誰も

相手にしてくれる人がいなくなってしまう。

 家に帰っても気は休まらず、今日の仕事はど

うだったのかとのほほんと尋ねる専業主婦の妻

に適当な作り話を聞かせてやり過ごす毎日だ。

 当然ながら経営者である義両親には主人公の

やらかしたアレコレを知られていて、冷たく睨

まれるような関係性だ。

 妻との間に生まれた一人息子が中学生になっ

たある日、ちょっとしたことがきっかけで妻に

ついていた嘘がバレてしまい義両親も怒り狂っ

て主人公は家を追い出されてしまう。





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