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悪魔も喘ぐ夜 Character Episode
*


「いい店だな」

「そうでしょ?

 コーヒーとホットサンドも期待しててね。

 兄さんもきっと気に入ると思うよ」


 素直に感想を述べると麗はまるで自分が

褒められたように喜んで小さく頷く。

 コーヒーとホットサンドが届くまで何を

話そうかと考え、ふと思い出したことを口

に出した。


「そう言えば他校の大学の学祭で演劇のピ

 ンチヒッター務めたんだって?

 麗が演劇に興味があるとは思わなかった」


 数日前に誠一郎とのメッセージのやりと

りをしていてその話を知ったのだが、正直

驚いた。

 確かに麗は人目を引く容姿をしているけ

れど、今まで舞台や演劇と言ったものに興

味を持っているなんて話は聞いたことがな

かったからだ。

 中学や高校でクラスの出し物としてもし

演劇が選ばれていたら主役を務めていたか

もしれない容姿ではあったが、そういった

経験もない。

 ちゃんとした舞台を観劇しに行ったこと

も、俺の知る限りではなかったはずだ。

 それが何故、大学の学祭…しかも自分が

通っているのとは違う大学の舞台に役者と

して立つことになったのか気になっていた

のだった。


「あぁ、うん。

 どうしても代役が決まらないからお願い

 って加我さん経由で頼まれたんだよ。

 加我さんの親友が演劇サークルの脚本担

 当の人でね。

 兄さんは加我さんのお兄さんあたりから

 この話を聞いたの?」

「うん。

 あぁ、そっか。

 高校は誠一郎の妹とクラスメイトだった

 んだっけ」


 麗の言う“加我さん”が俺の友達の加我

誠一郎ではなく、その妹の方だと気づいて

頷く。

 中学を卒業した麗は俺達が通っていた進

学校ではなく、別の高校へ進学したのだ。

 別に頭が悪かったわけではなくて“どう

せ同じ高校を選んでもお兄ちゃんと一緒に

は通えないから”と在学中にアルバイトを

許可してくれる自由な校風の高校を選択し

たのだ。

 誠一郎の妹もたまたま同じ高校に進学し

たようで、麗たちが2年に進級した時にお

互いの兄弟からその話を聞いて驚いたもの

だった。


「加我さんの親友、安田さんっていうんだ

 けど、彼女が所属してる演劇サークルっ

 て女性の比率が高いんだって。

 男性もいることはいるけど裏方の仕事を

 する人が殆どで、男性役者は配役して出

 し切ってしまった状態で同じシーンに二

 役では登場できない。

 だから手伝ってくれないかって加我さん

 から連絡があったんだよ」

「へー…」


 すごい縁だと素直に感心してしまう。

 高校時代のクラスメイトの親友、しかも

面識もない他校の生徒から代役を頼まれる

って傍から聞いている分にはちょっと想像

しにくい。

 もし麗がそういう活動に興味があって、

大学の外でそういう活動をしている時に知

り合ったのだとしたら難なく理解できる話

であったように思えるのだけれど。


「麗は本当に色んな人と知り合っていって

 るよな。

 人脈の幅が広いっていうかさ」


 普通に生きていても知り合いの知り合い

という間柄の人と知り合うきっかけは決し

て少なくはないと思う。

 けれど麗の場合はそれが既に付き合いの

途切れたはずの知り合いの知り合いだった

りするから驚くのだ。

 俺は兄である誠一郎とは仲が良くて今で

もそこそこの頻度で近況を伝えるメッセー

ジを交わしてはいるが、麗が誠一郎の妹と

そこまで親しいという話は聞いたことがな

い。

 元クラスメートというだけでも関係性的

には薄いだろうに、その人が進学した先で

仲良くなった親友の頼みなんて興味がない

分野であればなおのこと引き受けることは

ないと思う。

 SNS繋がりとか、そういうのがあった

のだろうか。


「そんな事ないよ。

 まぁ困ってたし、棒立ち棒読みで良けれ

 ばって言っただけ」


 麗はニコニコと微笑みながらまるで何で

もないことみたいにサラリと流した。

 俺はその言葉を聞いてますます麗のイケ

メンっぷりが上がったような感覚を覚え、

驚きと感嘆に瞬きする。


「棒立ちとか謙遜だろう?

 “舞台は大成功だったし、駆の弟の素性

 を知りたがる生徒が続出して暫く噂にな

 ったらしい”って誠一郎から聞いてるん

 だけど」

「あー、それはちょっと迷惑かけちゃった

 のかな。

 でももともと台本が良かったんだよ。

 代役が僕になったことで書き換えしてく

 れたり、役者の人達もセリフ覚え直した

 りしてくれて。

 舞台設営とか照明や音響の演出の効果も

 あっただろうし」


 麗はちょっとだけ頬を掻いて苦笑いを浮

かべつつも、元々サークル活動していた面

々の努力の結果だと話す。





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あきゅろす。
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