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悪魔も喘ぐ夜 Character Episode
*


 あの夜から昨日の夜まで、兄貴に毎晩お

ねだりを練習させられてたっぷりと精気を

啜られてしまった。

 焦らされて涙を滲ませては堪え性がない

と兄貴にさらに意地悪をされたり、俺のお

ねだりに満足できなかったら俺の粘膜をた

っぷりと舐め回してやり直しを要求してき

たりと、朝目覚めて思い出す度に赤面して

しまうような様々なことをされた。

 けれどそれ以外は溶けちゃいそうなほど

気持ちが良くて、限られた時間の中ではあ

ったけれどそれでも兄貴の肌を体温を感じ

られる幸せな時間だった。

 いや、本心を言ってしまえば意地悪をさ

れていても兄貴と触れ合えていられる時間

は全て幸福感に満たされていた。

 昨日の夜も寝入る前に麗との約束を取り

消してしまってもいいんですよと意地悪く

囁かれたけれど、それはしないと首を振っ

た。

 そんな俺に兄貴は最初から俺の返事な

んて解っていたような笑顔で、麗にここ

まで送り迎えをさせること、でも決して

部屋には上げないようにと言い含めたの

だった。


「でも秀兄さんと上手くいって良かった

 ね」

「え?えっ?」


 しかし続いた言葉にここ数日兄貴と何

があったのか見透かされたのだろうかと

焦る俺に麗は笑顔のまま言葉を続けた。 


「上手くいったから今日会えたんでしょ

 う?

 秀兄さんって兄さんのことになると目

 の色が変わるもんね。

 そんな秀兄さんが本当に外出を認めて

 くれるなんて、よっぽど頑張って説得

 したんだなぁって思って」

「あ、うん。まぁ…」


 夜のアレコレを見透かされたのかと慌て

る俺にニコニコと笑顔を崩さず話しかけて

くれた麗に本当の所は言えずに笑って濁す。

 かつて生々しく体の交わりを経験してい

るとはいえ、全てを明け透けに喋るのは憚

られる。


「さて、じゃあ行こうか」

「うん。

 美味しいコーヒーを出してくれる店だっ

 け?」

「そうそう。

 マスターこだわりのコーヒーを淹れてく

 れるんだ。

 トーストサンドがすごく美味しいんだよ。

 僕もバイト仲間に教えてもらったんだけ

 どね」


 歩き出す麗に促されて俺も麗の隣を歩く。

 身長は麗が高校の時にすっかり追い抜か

れて、今では麗の方が兄貴の背丈に近い。

 それでも麗がゆったりと歩いてくれるお

かげで俺は難なく麗の隣を歩くことが出来

た。

 俺達はゆっくりと歩きながら取り留めの

ない話をした。

 麗の大学やサークル活動それにバイト

先の話、俺の在宅ワークや私生活の話。

 そして兄貴の理解が得られれば、もし

かしたら麗と一緒ならもっと自由に出歩

けるようになるかもしれないと言うと麗

はまるで自分の事みたいに目を輝かせた。


「本当に?

 すごいよ、兄さん。

 あの秀兄さんをそこまで説得できるなん

 て」

「いや、まだ確定ではないんだけどさ。

 兄貴にとっての不安材料が一つずつ解消

 していけて、それと同時に実績を作って

 いけたらもしかするとって話。

 兄貴って本当に家にいないし、いたとし

 ても殆どずっと仕事しっぱなしだからさ。

 兄貴が仕事に行ってる間に少しくらいは

 俺も息抜きしておかないと、顔合わせて

 もギスギスしちゃうし」


 メッセージや電話越しでは伝わらない直

に会って話すという直接的なコミュニケー

ションはやはり楽しかった。

 相手が麗だというのも大きいかもしれな

いけれど。


「じゃあ頑張って実績を作っていかなきゃ

 ね。

 僕も協力するよ」

「サンキュ」


 互いに顔を向き合わせると自然と笑顔が

溢れる。

 麗と喋っていると心の中からぽかぽかし

てくるようで、電話越しでは足りなかった

ものが満たされていくような気がした。


「あ、着いたよ」


 麗が立ち止まったのにつられて足を止め

る。

 店内は暗い色の木材で作られたテーブル

や椅子と同じ材木であろう壁が明るい色の

植物の蔓で装飾されていて、昼下がりをイ

メージさせるようなジャズがゆったりと流

れる落ち着いた雰囲気のカフェだった。

 麗に促されて店内に足を踏み入れるとカ

ウンターの奥には穏やかな表情をしている

壮年のマスターと思しき人物が声をかけて

きた。


「何名様ですか?」

「二人で」

「でしたら、あちらのお席へどうぞ」

「どうも」


 マスターに案内されたのは暖かな日差し

の差し込む窓際の席で、椅子に腰を落ち着

けると麗とメニューを眺める。

 マスター自慢のオリジナルブレンドとそ

れぞれが食べたいホットサンドを注文し、

外の喧騒から隔離されたような店内の空気

を満喫しながら深く深呼吸してみた。

 漂うコーヒーの香りも流れる音楽もマス

ターのこだわりと優しさが見えるようで、

こういう店好きだなと心の中で呟いた。





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あきゅろす。
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