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悪魔も喘ぐ夜 Character Episode
*


「駆はしなくてもいいんですか?」

「うっ…」


 俺の考えてる事なんて全部見透かした上

で兄貴は意地悪く微笑む。

 兄貴が欲しい。

 俺の全身がそう訴えているのを十分に理

解していながら、それでも俺の口から言わ

せたいのだと俺の返事を待っている。

 信じて欲しいという言葉で兄貴の反論を

封じ込めた俺に対する、兄貴の意地悪なお

返しだ。

 兄貴に俺の言い分を聞いてもらえた喜び

と、そしてそれを口実にして兄貴に触れる

ことが出来る喜びが胸の奥で波打って全身

に広がっていく。

 兄貴は怒らせると容赦してくれないし意

地悪もするけど、何だかんだで優しい。

 そんな兄貴だから、俺は…。


「して、欲しい。

 ちょっとだけでもいいから」

「“ちょっと”で足りるんですか?

 今まで僕が我慢してきた分、たっぷり駆

 の中に呑んでもらいますよ」


 兄貴の体調に影響しない程度に、と遠慮

したつもりの俺に“駆はそれでは足りない

でしょう?”と細められた兄貴の目が笑う。

 そんなの困る…と真っ赤になって俺が首

を振りながら訴えると、兄貴は意地の悪い

笑顔を浮かべたまま俺の顎を引き寄せるよ

うにして顎のラインを撫でた。


「前を扱いただけではイケない駆の為にど

 うやって後ろの孔を可愛がればいいのか

 教えてあげたでしょう?

 それでも自分で抜いておかない駆の自業

 自得ですよ」


 兄貴にそう言い当てられてしまうともう

ぐうの音も出ない。


「兄貴が、いい…。

 兄貴とじゃなきゃ嫌だから、その…」


 でも物足りないのだから仕方ないのだ。

 今ここに兄貴がいないという事実を突き

つけられて寂しくて空しくなる気持ちは、

もう理性ではどうすることも出来ないから

自慰をする位ならば堪えてしまった方がい

いといつも考えてしまう。

 その結果、兄貴に“ちゃんと僕が教えた

とおりに自慰をしているならば耐えられま

すよね?”と焦らされて泣くことになって

も、その方が心も体も何十倍何百倍気持ち

いいから。


「あんまり意地悪…しないでほしい」


 もう煩い位暴れている心臓の音を掻き消

したくて乾いた喉から掠れた声を絞り出す。

 顎に触れている兄貴の手を引き寄せてキ

スしたい。

 もっと兄貴に触れたいし、触れて欲しい。

 いつも我慢してしまう分だけ、我慢しな

くていいと理解した途端に理性が霧散して

しまう。


「駆は相変わらず我儘ですね」


 目を細めて魅惑的に微笑んだ兄貴はそう

呟いて、引き寄せた俺の唇をゆっくりと塞

いだ。

 久しぶりのキスの感触にもう俺の心音は

最高潮で、早く兄貴を受け入れたくてうっ

すらと唇を開く。

 けれど兄貴はそんな俺の誘いには応じず

に唇を離してしまった。


「麗との約束の日まではまだ数日猶予があ

 ります。

 それまでに駆の外出に対する不安が軽減

 されるようにたっぷりと啜ってあげます。

 それから我儘な駆が溜め込まないように

 おねだりの仕方も、体で覚えさせてあげ

 ましょう」


 “どうして”という俺の中に生まれた小

さな不満は兄貴の言葉にあっけないほど簡

単に消え失せて、その何倍もの期待に胸を

躍らせながら再び重なってきた兄貴の唇を

喜んで迎え入れたのだった。




「兄さん、久ぶり」

「うん、久しぶり。

 ごめんな、結局迎えに来てもらっちゃっ

 て」


 麗との約束の日、俺は兄貴と暮らすマン

ションのエントランスで麗と久しぶりに顔

を合わせた。

 大学生になった麗は幼さが抜けた金髪の

イケメンに成長していて、やはり兄弟だか

らか兄貴と似ている部分もあるとはいえ優

しい笑顔を浮かべるその姿は金髪の王子様

が現代に抜け出してきたような錯覚すら起

こさせる。

 中学の頃から学校では女子からの人気が

絶えなかったようで、高校の頃から女子生

徒が連れ立って家までバレンタインチョコ

レートを届けに来たこともあった。

 けれど何人にも告白されたであろう気配

はあったのに誰か特定の相手と付き合って

いるという時期は俺の知りうる限りではな

く、恐らくはアルバイトと部活動で仮に誰

かと付き合ったとしてもあまりデートに時

間がとれなかった事は想像に難くない。

 麗は兄貴と違って異性がまったくダメと

いうことはないだろうけど、同じ高校に通

い一時期クラスメイトにもなった誠一郎の

妹が言うには“誰にでも優しくて気配りも

出来るけれど、誰の告白もOKしないから

こそ余計に人気に拍車をかけている王子様”

ということらしかった。


「いいよ、どうせ午後の講義までは時間

 があるから」


 提案してきたのは麗とはいえ本当にわ

ざわざマンションのエントランスまで足

を運ばせてしまったことを詫びると麗は

何のことはないと明るく笑ってくれた。





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あきゅろす。
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