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悪魔も喘ぐ夜 Character Episode
*


「…まったく」


 ため息交じりに呟いた兄貴は視線を伏せ

て苦笑いを浮かべる。

 全てではないにしても兄貴の纏う空気か

ら棘が引っ込んだような気がして俺も安堵

しながら引き結んだ口元を緩める。


 良かった。

 これできっと何か起きない限りは麗とお

茶するくらいのことで目くじらは立てなく

なるだろう。

 麗が付き添うならちょっとした外出もし

てきていいと兄貴が言ってくれるようにな

ったら、俺ももっと暮らしやすくなるかも

しれない。


「でも、今のままでは行かせませんよ」

「えっ?」


 兄貴の口から予想に反した言葉が出てき

て、俺は何か不味い言い回しでもしただろ

うかと考えを巡らせる。

 しかし思い出してみても兄貴の不安や怒

りを煽るようなことは言わなかったはず。

 それとも俺に簡単には言い負かされてや

らないという兄貴のただ意地悪だろうかと

不安になる俺の頬に兄貴の掌が伸びてきた。


「何をそんなに驚いているんですか。

 そんなに甘い匂いを充満させている駆を

 外出させるつもりはないと言っているん

 ですよ」

「っ…」


 頬に触れた掌が間もなく首筋へと降りて

いって、俺は緊張が解けたと同時に兄貴の

たっぷりと含みのある視線に絡めとられて

ドキドキし始める。

 ゴクリと無意識に鳴った喉の動きさえ兄

貴に悟られたかもしれないけど、困った事

にもうそういった体の反応は俺自身の意思

では制御しきれない。


「僕が殆どフェロメニアの体臭に影響され

 た素振りを見せないから、実は大したこ

 とないのだろうと勘違いしているでしょ

 う?

 駆にはまずその認識を改めてもらわない

 と、やすやすと外出なんてさせられませ

 ん」

「だって、それは兄貴じゃないと…。

 でも兄貴は忙しいし…」


 言い訳しながら舌が渇いていく。

 ドキドキと早鐘を打つ心臓の音に引き摺

られて体の奥が期待してほんのりと熱を帯

び始める。

 兄貴と心も体も蕩けて混ざり合ってしま

うようなセックスを知ってしまったら、ど

うしても自慰では物足りなくて。

 事後の虚しさや高まる孤独感が苦手で、

自分で慰める頻度は決して多くはない。

 だから兄貴の言う通り欲求不満がフェロ

メニアの体臭を濃くしてしまうのならば、

今の俺は随分と甘く匂っているはずで。

 けれど兄貴が指摘する通りに、兄貴自身

がそんな俺の体臭に影響されて欲情するこ

とは殆どないからフェロメニアと言っても

その程度なのだろうと…思っていた節はあ

る。

 それにたとえ俺が欲求不満を持て余した

としても、多忙な兄貴に貴重な睡眠時間を

削ってくれなんてとても言えなかった。

 これは事実で、誓って言い訳だけではな

い。


「駆はベッドの上で僕がちょっと焦らした

 だけですぐに泣きながらおねだりをする

 のに、僕がどれだけ堪えているかちっと

 も理解しようとしないんですから」

「…っ!」


 目の奥に意地悪な光を宿した兄貴はお返

しと居言わんばかりに直接的な言葉を俺に

投げかけ、俺はその視線を言葉で心を目に

は見えない羽根で擽る様に愛撫されたよう

な錯覚に陥る。

 心拍数が跳ね上がり、頬の熱は耳の端ま

で及んだ。

 その羽根を握る兄貴は意地の悪い笑みを

浮かべているから素直には喜べないんだけ

れども、そんな兄貴の視線にすっかり心も

体も絡めとられているという事にさえ俺に

とっては快楽で。

 惚れた弱み、というやつなのかもしれな

い。

 兄貴のちょっとした意地悪も、それが愛

情の裏返しだと分かっているから嬉しいと

感じてしまう。

 時々はしつこいくらいに焦らされて泣か

せれたりもするけれど、その後には必ず頭

が真っ白になるほどの快楽が待っている。

 そういうのは兄貴の手練手管だと頭の片

隅ではわかってはいても、そうやって構っ

てくれるのは兄貴が愛情を向ける相手だけ

だと心と体で十分に理解しているから。


「だって兄貴は明日も仕事が…」


 気恥ずかしいのと兄貴に無理をしてほし

くもなくてそんな言葉が口をついて出る。

 そんな言葉が出ても内心ではすごくドキ

ドキしていて、それは兄貴にやっぱりやめ

ようと言い出されるかもしれないという不

安からくるものは半々でしかない。

 既に期待し始めた体は熱帯びていて、体

を乗り出せば唇が触れる距離だと兄貴の翌

日の体調を心配しつつも思考の隅ではそん

なことまで考え始めてしまう。





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