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悪魔も喘ぐ夜 Character Episode
*


「麗はああいう性格だし兄貴から見たらベ

 タベタし過ぎなのかもしれないけど、少

 なくとも俺にとっては子供から知ってる

 大事な弟だ。

 でも、それ以上の感情はないから。

 俺は兄貴を選んだんだし、麗もそれは充

 分に分かってくれてると思う。

 もし今でも麗が俺を兄弟以上の感情で好

 きだと思ってくれているのだとしても、

 俺はその気持ちに応えてあげられない。

 それがたとえ麗を傷つけてしまうとして

 も。

 それで麗と疎遠になってしまうのなら、

 それはそれで仕方がないと思ってる。

 兄貴もそれは信じてくれるだろ?」


 俺の気持ちはもう兄貴にあって、それが

揺らぐことはないこと。

 たとえそれで麗が離れて行ってしまうの

だとしてもそれは仕方ないことだし、俺に

はそれを受け入れる覚悟があること。

 俺が兄貴の目をじっと見つめて尋ねると、

兄貴は深く息を吐き出して静かに頷いた。


「けれど駆がどう思っているとしても、麗

 がそれに反しないという保証は何処にも

 ありません」

「麗は俺が嫌だと思うことを無理強いした

 りしないよ。

 子供の頃からそうだっただろ」


 それは俺の体質が発覚した時もそうだっ

たし、それ以後から今までも破られたこと

はない。

 これからもきっとそうだろう。


「それは麗が駆に嫌われることを最も恐れ

 ていたからですよ。

 けれどそれが今後一生守られる保証は何

 処にもないと言っているんです」

「麗が、恐れる…?」


 兄貴の言葉に今度は俺が目をぱちくりさ

せた。

 麗はいつでも俺の後をついてきて、ニコニ

コと笑顔を絶やさなかった。

 いつも俺にくっついて甘えていた麗とは確

かに喧嘩らしい喧嘩なんてしたことがない。

 だけどそれは麗が怯えていたからだと言う

のだろうか。

 俄かには兄貴の言葉が理解できなくて首

を捻ってしまう。


「喧嘩一つしない兄弟も世の中にはいます

 が、それは歳が離れていてそもそも喧嘩

 にならなかったり連れ子同士であまり仲

 が良くならなかったりする場合です。

 或いはお互いに穏やかな性格で言い争い

 を避ける傾向になるならば理解も出来ま

 すが、少なくともそれはどちらにも当て

 はまらないでしょう。

 確かに駆は麗を猫かわいがりしていまし

 たが、それ以上に麗が駆の顔色をずっと

 気にして言動に注意していたから喧嘩に

 ならなかったんですよ」


 “気づいていかなかったんですか?”と

細められた兄貴の目が無言で俺の心臓をチ

クリと刺した。

 麗のことは兄貴より良く知っているつも

りでいたのにというショックとやっぱり兄

貴に鈍感扱いされてしまう悔しさに俺は押

し黙った。


「けれど本当にこのまま駆が実家に戻るこ

 となく僕と暮らし続ける…つまり麗を昔

 ほど構うことはもうないという事が実感

 として迫った時に駆の意思を無視しない

 という保証はないと言っているんです」
 
「そんなこと…だって相手は麗だし」

「麗だから、言っているんです」


 俺の言う事を無視して突っ走る麗?

 俺が嫌だと反発しても無理矢理組み敷こ

うとする麗?

 いずれも想像すらすることが出来なくて

俺は首を横に振る。

 けれど兄貴はそんな俺に“だから”をや

けに強調して反論してきた。

 強調されたって俺にはさっぱり理解でき

ないのだけど。


「麗の駆に対する執着心は昔から筋金入り

 です。

 麗を甘く見ているといずれ痛い目を見ま

 すよ」

「うーん…」


 兄貴に警告されてもいまいちピンとこな

い。

 兄貴の言う通りだったとしても、だから

といって麗が暴走するかもしれないとは思

えないからだ。

 確かに麗とは喧嘩らしい喧嘩なんてして

こなかったけれど、それはもともと麗が相

手の気持ちを汲み取ることができる心優し

い性格だからじゃないのか。

 仮に兄貴の言うような怯えが麗の中にあ

ったとしても、だからと言って無理強いす

るような性格ではないと思う。

 これは俺が兄貴の言う事を信じていない

からではなくて、ずっと一緒に育ってきた

俺自身が見て感じてきたことだ。

 もし仮に麗がそういう言動をとれる人間

だったとしたら、俺が実家を出た時にそう

いう予兆が見てとれてもおかしくはなかっ

たと思う。

 けれど麗にそんな素振りはなかった。

 それどころか自分の気持ちを押し殺して

ちょっと不器用な笑顔をつくる事さえあっ

た。

 そんな麗が俺の意思を無視してどうこう

しようなんてするとは思えないから、兄貴

との認識の差が出来ているのではないだろ

うか。





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