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悪魔も喘ぐ夜 Character Episode
*


 それでも兄貴にとっては嫌なのだろうか?

 俺の体質が判明して以来もともと外出の

件しかり過保護な部分は過剰なくらい過保

護になっているとは感じていたけれど。

 高校生だった頃、毎日クロードにちょっ

かいを出されていても登校したいと訴えた

俺に身をもって解らせると宣言した兄貴が

乱暴した事もあった。

 俺が就職を断念した事件後、日々の買い

出しすら禁止するほど神経質になった時期

もあったし、それは今でも色濃く残ってい

る。

 確かに兄貴から見たら外出を簡単に許せ

るほど安全な環境だとは思えないのかもし

れないけれど…多分それだけではないよう

な気がしてならない。

 兄貴は俺が外出することでこの部屋の外

で危険な目に遭うことを心配しているだけ

じゃなくて、誰かと親密になるのを嫌がっ

ている節がある。

 知人や付き合いの浅い友人程度の当たり

障りのない人付き合いには何も言わないけ

れど、麗ほどではないにしても個人的なや

りとりがそこそこ頻繁になってくるとあま

りいい顔をしなくなる。

 不機嫌になるとかあからさまな態度に出

ることはないけれど、例えばその人と二人

で直接会うような用事が出来れば家に仕事

を持ち込むほど忙しいというのに兄貴が同

席する流れになることも多い。

 それをたまに息苦しいと思ってしまう事

もあるけれど、基本的には兄貴と一緒にい

られるのは嬉しいし兄貴と共通の知り合い

が増えるというのは悪いことではないとも

思う。

 それに一度直接会ってしまえばそれ以降

は兄貴もあまりその人との交流に口を挟ん

でこなくなるから、兄貴の中の不安材料を

無くすという意味でも必要なんだと思う。

 それを踏まえて麗とのやりとりにここま

で兄貴が口を挟んでくるというのは、つま

り幼い頃から一緒に育った血の繋がる弟で

あっても未だに警戒しているという事の表

れなのだとも思う。

 兄貴が指摘する通り麗とは普通の兄弟以

上に仲が良いし、それ以上の…つまり肌と

肌を重ねた事があったのも事実だけど。

 今の状況を踏まえた上で兄離れ弟離れと

言うほどの関係ではない…と俺は思う。

 ただ、例えばもし立場が逆ならと考える

と複雑な心境にもなる。

 もし仮に兄貴が俺にしたのと同じように

麗にも接していて、麗が想いを募らせた相

手が兄貴だったとしたら?

 ちょっと想像はしにくいのだけど、兄貴

と麗が普通の兄弟以上の…肉体関係までも

った過去があって未だに麗が兄貴を好きだ

ったとしたら。

 俺は二人の関係を心穏やかに見守れるだ

ろうか、と。

 それは兄貴や麗を個別に信頼しているか

どうかとはまた別の話かもしれない。


「兄貴にはベタベタしてるように見えるの

 かもしれないけど、それは今の状況だっ

 たらお互いにメッセージのやりとりをす

 る余裕があるから続いているだけの事だ

 と思う。

 麗だって就職すれば今ほどメッセージを

 やりとりする余裕は無くなるだろうし、

 そうなったら自然と一般的な兄弟付き合

 いのレベルになるんじゃないかな。

 それに兄貴はベタベタしてるって言うけ

 ど、そもそも俺が麗に構うようになった

 のは兄貴がいたからだし」

「僕がいたからというのは?」


 俺の言うことにも一理あると思ったのか

兄貴の声から棘が引っ込む。

 それでもまだちょっとピリピリしている

のは、俺が続ける言葉によって次の言動が

決まるからという緊張が残っているからか

もしれない。


「兄貴が俺にとって“理想の兄”だったから。

 俺も麗にとって憧れてもらえるような兄

 貴になりたかったっていうか…」


 言いながらだんだんと恥ずかしくなって

そっぽ向いて頬を掻く俺の前で兄貴は虚を

突かれたようにすっかり表情からは毒気が

抜けていた。

 確かに“お兄ちゃんお兄ちゃん”と俺の後

をついて回る麗は可愛かった。

 けれど麗の兄としての自覚が芽生えたの

は、兄貴という見本がすぐ側に居たからだ。

 母さんが“駆ももう立派なお兄ちゃんね”

と微笑んだ時、憧れの兄貴のように麗に接

することが出来たのだと純粋に嬉しかった。

 そうしてますます兄として麗を引っ張っ

ていこうと決意したのをうっすらと覚えて

いる。

 幼い時とは今は全然状況が変わってきて

いるけど、そもそものきっかけはと言われ

たら間違いなく兄貴の影響だ。





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