[携帯モード] [URL送信]

悪魔も喘ぐ夜 Character Episode
*


「んっ」


 柔らかくて溶けてしまいそうな感触をち

ゃんと確かめたくて唇で軽く吸ってみると、

触れ合う唇からでも分かるほど莉華の肩が

震えて唇が離れた。


「恵はどうしてそんなに積極的なんですの?

 私の気持ちを知って、戸惑っているんじ

 ゃありませんの?」


 頬を赤らめた莉華の目が不安に揺れてい

る。


「ファーストキスを奪われちゃったお返し、

 かな?」


 その問いかけに答えられるだけの言葉が

あたしの中にはなかった。

 自分で自分自身の気持ちがちゃんと理解

できずに戸惑いつつも、莉華の気持ちを拒

絶しなければならないとは思ってはいない

ことをどう伝えたらいいのか分からなくて。

 だから以前の莉華の悪戯を理由にしてち

ょっとおどけて見せた。

 莉華とのキスを嫌だと思えない事、そし

てそのキスをきっと少しだけ気持ちいと感

じてしまっている事。

 それを素直に伝えることはまだ憚られた

から。

 あたし自身がまだ言葉に出来ない気持ち

を莉華が誤解して、もしそれにあたしの気

持ちが追い付けなかったら、きっと今それ

を伝えるよりもっと莉華を傷つけてしまう

だろうから。


「恵、意地が悪いですわ」


 莉華はちょっとだけ頬を膨らませるけど

その表面の赤みは引かず、拗ねながらもそ

の目の奥では期待に揺れる光が見え隠れし

ていた。

 今ここで莉華の気持ちに応えられるか分

からないと正直に伝えてしまうべきなのだ

ろうか。

 変に期待させて落胆させてしまう未来を

迎えるくらいなら、今ここでスッパリと告

げてしまうべきなのか。


「……」


 でも顔を赤らめて見下ろしてくる莉華を

可愛いと感じてしまう気持ちも本心で、も

っとキスをしたいと胸を内側から叩く心臓

の高鳴りも本物だから。

 だから莉華が提案していたように、この

気持ちがどういうものなのかしっかり言葉

に出来るように触れあって確かめる方がい

いのかもしれない。


「莉華にはいつも振り回されっぱなしだか

 ら、たまにはいいでしょ?」

「むぅ…」


 自覚があるのか、莉華は拗ねた顔をする

ものの反論はしてこない。

 片腕をベッドに上について体を支えつつ

上半身を起こすと、莉華はあたしの上から

退いてすぐ隣に座り込んだ。


「答え合わせの続き、しようか?」

「それはキスの続きという意味ですの?」

「それも含めて、かな」


 返答に含みを持たせたあたしの言葉に莉

華は小首を傾げるけれど、指を伸ばしてそ

の髪に触れると嫌がる素振りは見せなかっ

た。


「莉華とはずっと一緒に育ってきて、もう

 妹っていうか家族みたいなものだと思っ

 てた。

 だけど莉華はあたしの知らない内に気持

 ちを変化させていて、あたしが今それに

 戸惑っているっていうのは本当。

 でも莉華の気持ちを何も考えないまま否

 定したり拒絶したりはしたくない」


 莉華はあたしに髪を撫でられながらただ

黙ってあたしが話すのを聞いていた。


「それと同時に莉華自身にも考えて欲しい

 の。

 莉華自身の気持ちが本当に揺るがないの

 か、あたしがその気持ちを受け入れたと

 したらどうなりたいのか。

 高校を卒業したらあたし達は別々の進路

 に進むでしょう?

 大学に通う様になったら新しい出会いも

 あるだろうし、今までみたいに毎日顔を

 合わせることも難しくなると思う。

 そういうのも全部ひっくるめてどうした

 いのか」


 新しい環境に物理的な距離。

 ごく普通の両想いの恋人達でさえ気持ち

のすれ違いを起こしやすい未来がすぐそこ

まで迫ってきている。

 従妹同士、同性であることを乗り越えた

としても、障害はいくらでも行く手を阻み

に来るだろう。

 それでもその気持ちは揺るがないのか。

 今の選択に後悔しないのか。

 莉華が本心からやり直したいと思うのな

らば、答えを出す今夜ならばまだ引き返せ

るかもしれない。

 “そんな事もあったね”といつか遠い未

来で笑い合えるような関係に修復できるか

もしれない。


「分かりました。

 でもさっきも言いましたけど、私は女の

 子同士のそういった事にはあまり詳しく

 ありませんのよ。

 ですから」


 困った顔で話す莉華の唇にそっと人差し

指で触れると、莉華はちょっと驚いた眼で

此方を見つめてきた。





[*前][次#]

第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!