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悪魔も喘ぐ夜 Character Episode
*


「やっぱり、やめよう?

 なんだか、怖い…」


 それは莉華に体を好き勝手弄られること

に対する嫌悪感などではなくて、むしろそ

れをどうあたしの体が感じてしまうのか知

るのが怖いから。

 キスが気持ち良かったとしても、遊びの

延長といつか割り切れるようになるかもし

れない。

 でもこれ以上進んでしまったらいけない

と頭の中で警鐘が鳴り響く。

 これ以上触れられたら、きっとただの

“遊び”として片づけられない事態になっ

てしまう。


「どうしてですの?

 何も怖くありませんわ。

 恵が痛がるようなことはしませんわよ」

「そうじゃ、なくて…っ」


 首を振る私の濡れた突起を莉華は指の間で

揉みながら、もう片方の突起に触れんばかり

の距離へ唇を寄せる。


「恵、私はもう覚悟を決めましたの。

 たとえ今やめても、もう“元通り”の顔

 で笑ったり出来ませんのよ」


 莉華の落ち着いた囁くような声にピクッ

と私の肩が震える。

 今目の前にいる莉華はもう従妹の顔でも

なければ幼馴染の顔もしていなかった。

 その目の奥に静かな揺るぎない決心を秘

めていた。


「このまま進んで新しい関係を築くか、進

 学を機に疎遠になって別の道を歩むのか、

 その二択しかありません。

 恵こそ、もし私が今ここで手を止めたら

 まるで何事もなかった顔で明日から私と

 顔を合わせられますの?」


 莉華に問われて、戸惑う。

 いつも通りなんて、多分無理だろう。

 今夜のことを、莉華の気持ちと行為の記

憶が私の中で遠く思い出す程度の記憶にな

るまでは。

 それまでにどれだけの時間を要するのか、

私には見当もつかない。

 ううん、それ以前の問題もある。

 莉華の気持ちを知りながらそれを無視し

て…聞かなかったことにして、莉華に今ま

で通り笑ってほしいなんてそんな事はとて

も頼めない。 

 こうなることを予測していたからこそ莉

華は今まで自分の気持ちを打ち明けること

が出来なかったのだろう。

 裏を返せば、もう後戻りはしない覚悟で

莉華は自分の気持ちを告げたのだ。


「…」


 私の目の前にはもう二択しか残されてい

ない。

 莉華の気持ちごと莉華を受け入れられな

ければ、連絡を絶って離れるしかない。

 そうしなければ莉華が辛い思いをする。

 莉華の気持ちを聞かなければ良かっただ

ろうかと思いかけて、それは違うと考えを

打ち消す。

 莉華には黙ったまま進学するという選択

肢もあったはずで、けれど莉華はそれを選

ばなかった。

 もし仮に莉華が全てを胸の内に秘めたま

まだったとしても、それは沈黙を続ける莉

華の苦しみが表面化しないと言うだけのこ

とに過ぎない。

 いずれはこうなったかもしれないし、そ

もそもそれはあたしが莉華の気持ちを知ら

ずにいるというだけで何の解決にもならな

い。


「莉華はもう決めたんだね…?」

「はい。

 いずれ恵は異姓の恋人を作って、結婚し

 て、出産も経験するかもしれません。

 それは人として当たり前の幸せで、多く

 の人が望んでいる将来像だと思います。

 でも私はそんな恵を想像するだけで胸が

 張り裂けそうで、耐えらえないんですの」


 莉華はあたしの手を強く握って自分の胸

元に引き寄せる。

 触れる肌からその胸の痛みを教えたいよ

うにぎゅっと目を瞑る莉華の表情はまるで

悪夢でも見ているようで、私はかける言

葉がなかった。


「それならばいっそ恵に私の気持ちを明

 かしてしまって、恵が私の気持ちを受

 け入れられないのならここで自分の気

 持ちに区切りをつけたいんですの。

 いつか恵が恵の望む相手を選んだ時に、

 せめて恵の吉報は誰よりも遠い場所で

 知りたいんですわ」


 “誰よりも遠くで”その言い回しにも莉

華の苦悩が滲んでいた。

 どれほど遠方に引っ越したとしても、従

妹という血の繋がりは一生消えない。

 冠婚葬祭をはじめとする親戚付き合いも

あれば、従妹という立場上私がいつかそう

いう縁に恵まれれば嫌でも莉華の耳には入

るだろう。

 それでもたとえどんな答えが返ったとし

ても今ここでその気持ちに区切りをつけた

いと莉華が望むのであれば、私はそれに応

えなければならない。

 たとえその答えが拒絶であったとしても、

莉華は正面から受け止める気でいるのだか

ら。





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