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悪魔も喘ぐ夜 Character Episode
*


 そうこうしている間にやり取りを終えた

らしいクロードが歩き出す。

 シャンデリアの輝く広いエントランスか

ら中央階段を上って2階に行くと廊下の角

をいくつもの曲がる。

 初めての俺は途中まで覚えようとして頑

張ったけれど、廊下に飾られた絵画や彫刻

品に目を奪われている間に分からなくなっ

てしまった。


「ねぇ、これって全部本物?」

「本物って?

 レプリカかっちゅうことなら、そんなも

 ん飾る価値もないやん。

 スペースの無駄や」


 当たり前と言えば当たり前の答えが返っ

てきて、そんな質問をしてしまったことが

恥ずかしくなる。

 そりゃこんな豪邸に住んでいるのだから、

全部本物なのだろう。

 美術品の価値なんて俺にはさっぱりだけ

ど、それでもそれらがもつ重ねた歳月の長

さやそれでも失われない本物のもつ輝きが

伝わってくるようだった。

 暫く歩いて辿り着いた扉の前でようやく

クロードは俺を下ろしてくれた。

 綺麗な彫り模様の施された木製のドアの

脇の壁に触れた。

 傍から見ると全然そんな感じではなかっ

たのに、触れた部分の壁がスライドして中

からタッチパネルが現れた。

 驚いている俺の目の前でクロードの指先

が慣れたように動いて、間もなくドアノブ

に触れてもいないのにカチャリと自動で開

錠する音が響く。

 お城みたいな屋敷はおとぎ話や絵画から

出てきたようなのに、その外観から受ける

イメージとは真逆で随分と近代化されたシ

ステムで管理されているようだ。


「どうぞ?」


 ぽかんとしている俺の前でクロードが先

に部屋に入って、扉を開いたまま俺を中へ

と促す。


「お…お邪魔します…」


 部屋中に敷き詰められた毛の長い絨毯

を踏みしめながら中へ入ると、いつかの

クリスマスに泊まった遊園地のホテルの

スイートルームさえちょっと霞むような

広さの部屋が俺を出迎えた。

 部屋は黒とゼブラ柄で統一されたシッ

クで落ち着いた空間だった。

 色合いこそ落ち着いているものの置かれ

ている家具からは押しつけがましくない高

級感が溢れている。

 座り心地の良さそうなソファや映画館か

と言いたくなるような大画面のテレビは勿

論、仕事をするための長机は分かるけど色

とりどりの酒瓶が並ぶバー風カウンターま

である。

 広々とした部屋の隅にはクロードらしく

トレーニング器具もいくつか置いてあるが、

それでも部屋の雰囲気を壊すようなことは

ない。

 しかもぐるりと見渡しただけで奥へと続

く扉が3つは見えて、ちょっとやそっとの

広さじゃないなと舌を巻く。

 クロードにとってはこれが“当たり前”

なんだ。
 
 以前から何となく察してはいたけれど、

住む世界が違うというのはこういうことな

んだと肌でひしひしと感じる。


「いつまでそこに居るん?

 歩けないんやったら俺がベッドまで運ん

 だろか?」

「あっ、歩けるしっ!」


 ようやく地に足がついたのにとんでもな

いと首を振って黒い皮製のソファへ歩み寄

りそっと腰を下ろす。

 するとそれを笑いながら眺めていたクロ

ードが俺のすぐ隣にゆったりと座り、俺の

肩に腕を回してきた。


「(クロード様、荷物はこちらで宜しいです

 か)」

「(あぁ。

 それからダージリンを)」


 カイルらしい背筋が伸びるようなイント

ネーションの英語にクロードは大きく息を

吐き出してすっかり寛いだ調子で返す。

 しかし聞き取れた単語に俺はピンと思い

当たった。


「紅茶…?」

「ん?あぁ、よう分かったな。

 父上もまだ帰ってきて間があらへんし、

 すぐには会われへんねん。

 やからちょっとゆっくりしようや。

 長いフライトで駆も疲れたやろ?」


 当然のように抱かれた肩を引き寄せられ

るけど、カイルの目の前だからとされるが

ままにはならない。

 クロードはもうちょっと周りの目を気に

してほしい。


「車まで寝てたからそうでもないけど…。

 クロードはちゃんと寝た?」

「あぁ、合間にな」


 こめかみの辺りにクロードの息遣いを感

じたと思った直後に唇を奪われた。

 舌こそ入ってこなかったけど、カイルが

いるのにやりすぎだと口をへの字に曲げて

視線で叱る。

 当のクロードはそれでも全然気にしてく

れないけれど。


「父上に顔を見せて戻る頃にはもう夕食が

 出来上がってるやろ。

 そしたら二人でゆっくりしよな」


 夕食…。

 俺は長いこと寝ていたからそこまでお腹

は空いていないけど、クロードはやっぱり

食べたいだろうか。

 いや、よく考えたらクロードは本来毎食

そういうものを口にしないといけない種族

なんだから、サプリメント以外の栄養摂取

を考えたら俺が飲ませてあげるのが一番な

のかもしれないけど…。

 そんな生活が一カ月以上続くのだとした

らもつだろうか、色々と。


「…何考えてるん?」

「へっ!?い、いや、何もっ?」


 不思議そうにじっと見つめる視線からば

っと顔を反らすと、テーブルの上に俺の荷

物を置いてくれたカイルと目が合った。


「あっ、ありがとう、カイル」


 わざわざ運んでくれてとお礼を言ったけ

ど、“話しかけるな”とばかりに目を反ら

されてしまった。

 カイルが冷たい。ショックだ。


「なぁ、カイルの休みっていつ?

 俺は1ヶ月以上こっちでお世話になるし、

 カイルとも遊びた」

「俺は仕事で忙しい。毎日だ」


 俺に全部言わせずに途中から声を被せて

きて全却下する。

 しかも何だか凄くイライラしてる。

 俺、まだ何も怒らせるようなこと言って

ないはずなのに。


「カイル、冷たい」

「お前を構わなければならない義務など俺

 にはない。

 俺が何かお前にすることがあるとしたら、

 それはクロード様の命令でだ」


 口を尖らせる俺をバッサリと切り捨てて、

カイルは俺の事など眼中にないという態度

でクロードに一礼して部屋を出ていく。


「うー…ちょっとでもいいから一緒に遊び

 たかっただけなのに」


 突然異国に連れてこられて右も左も分か

らない状況なのだから知り合いは一人でも

多い方がいい。

 クロードだって何だかんだで仕事で忙し

そうだから、どれだけ構ってくれるか分か

らない。

 せっかくの海外旅行なのにこの部屋から

ほとんど出られなかったら、何だかすごく

勿体ない気分になってしまう。





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