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悪魔も喘ぐ夜 Character Episode
*


「カイルにとって俺って何なの?

 クロードのオモチャ?」


 ポロッとそんな言葉がでた。

 そんなこと考えたこともなかったのに、

スッと酔いの冷めた思考にそんな言葉が滑

り込んできたのだ。

 それを口にした俺自身がその意味を理解

して戸惑うのとほぼ同時にカイルの声が被

さってきた。


「違うっ。

 あっ、いや…そうじゃなくて。

 …お前はクロード様の元に居た方がいい

 と思っているだけだ」


 カイルも自分が俺の言葉を否定したこと

に驚いているようで、何かを考え込む様に

してから言い訳のように理由を付け足した。


「俺が何処に住んで誰と居たいのか、それ

 は俺が選ぶことだから。

 仲良くしたいと思ってるカイルが、クロ

 ード越しにしか接してくれないのは寂し

 い」


 クロードにとってカイルは従者で、カイ

ルにとってクロードは雇い主で。

 けどカイルと仲良くしたいという視点か

ら考えると、俺にとってクロードはカイル

との間を隔てる分厚い壁だ。

 その壁を乗り越えたい俺と壁に背を向け

るカイル。

 カイルが少しでいい、こちらを振り返っ

てくれたらそれだけで距離は縮まりそうな

気がするのに。


「カイルは本当に本気で俺のことが嫌いな

 のか?」


 何か言いかけてそれでも結局何も言わず

に口を閉ざしてしまったカイルに、同じ問

いを投げかける。

 今もう一度カイルに嫌いだと言われたら

諦める。

 諦めたくはないけど、もうカイルの中で

俺とは仲良くできない根本的な要因は覆せ

ないのだと自分に言い聞かせる。

 しつこいと思われるかもしれない。

 いや、もう思われてるかも。

 だけど…。


「…その、そこまで嫌いでも、ない…かも

 しれない…」


 背後の喧騒が煩くて、俺に両腕を捕まれ

たままバツが悪い顔で俯いたカイルの消え

てしまいそうな小さな呟きはかろうじて俺

の耳に届いた。

 “嫌いじゃない”

 カイルの言葉で覚めかけていた浮遊感が

ぶわっと戻ってきた。

 ふわふわと心地よい感覚に浮かべる笑み

がいつも以上に柔らかくなる。


「そっかー…そっかぁ…!」


 カイルが俺のこと嫌いじゃないって言っ

た!

 これから頑張れば友達になれるかもしれ

ないってことだよな!

 いや、むしろこんなに一緒にいる時間が

長いんだから、もう友達でもいいかも!


「えへへー。カイル大好きっ!」

「っ!?ちょっ…!?」


 掴んでいたままの腕を引き寄せてカイル

を抱き締め、頬にキスをする。

 ところが頬にキスしようとしたんだけど、

カイルが動いたせいでカイルの唇に当たっ

てしまった。

 まぁ事故だよね、事故。

 これが兄貴やクロードだったら大変なこ

とになるけど、カイルなら大丈夫だろうし、

うん。
 
 それにしてもカイルの唇柔らかかったな

ぁ。


「お兄…ちゃん…?」


 そういえばいつの間にか背後の喧騒は静

かになっていて、部長はちょっと離れた席

からいつも通りカメラを構えてるし、つい

でにテーブルを挟んで顔を赤くしながらビ

ールを飲んでいた宿屋の主人も口の端から

ナッツを落としていた。

 …あれ?


「い、いやぁ!最近の若者のスキンシップ

 の仕方は変わってるなぁ!」


 ベロベロに酔いかけの顔で豪快にそう笑

われて、俺もつられてへらっと笑う。

 クロードとカイルが英国生まれな事、そ

してあちらの文化では頬にキスするのは当

たり前な事をペラペラと喋ると主人は“な

るほどなぁ”と納得しながら更にビールを

注ぎ足す。


「ねぇ、お兄ちゃん。

 もう気になることは無くなったでしょ?

 だから今すぐ僕の部屋に戻ろう?」


 にこやかな表情でカイルの腕を掴んだま

まの俺の手に麗が触れる。

 何だかいつもの笑顔と違うような気もし

たけど、それが何故なのかは分からない。


「カイル、お前はちょっと面貸せや。な?」

「……っ!!」


 いつの間にかカイルの背後に回り込んで

いたクロードがカイルの肩に手を置く。

 カイルの体の震えと同時に、その肩に置

かれた手に力が込められていることがあり

ありと分かってそれを見咎めた。


「あっ!カイル虐めたら許さないからな、

 クロードっ!」

「優しい俺はそんなことせぇへんって。

 なぁ、カイル?」


 満面の笑みを浮かべるクロードとは対照

的に血の気を失った表情でカイルが頷いて

いる。

 しかしそれに口を挟もうとした俺の腕を

兄貴が掴んだ。


「これ以上の勝手は許しません。

 保護者代理として、両親に頼まれていま

 すからね」


 反論を許さない兄貴の冷たい声が俺のそ

れ以上の主張を全て封じ込めた。

 兄貴はしっかりしてるからと両親から絶

大な信頼を得ているけど、こういう時ばか

り保護者権限を振りかざしてくるのはズル

イと思う。

 しかし口を尖らせる俺を正論で黙らせる

ことなど兄貴には朝飯前で、俺はクロード

に何度も念押しして食事の席を立つしか出

来なかった。





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