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悪魔も喘ぐ夜 Character Episode
*


「断る」

「なんで?!」

「なんでって…」


 視線をそらしてボソッと答えたカイルの

返答に傷つきながら、ここで引いたらダメ

だとすぐに尋ね返す。

 カイルの両腕を掴んだままだから、思わ

ず揺さぶってしまいたくなるのをこらえる。


「お前に関わると碌なことにならないし…」


 視線をそらしたまま小声で言い訳のよう

に返された言葉を聞いて、顔だけクロード

を振り返った。


「ほら、クロードがいじめるからっ」

「俺は虐めてへん。

 立場っちゅうもんを弁えへんのが悪いん

 や。

 けど、せやなぁ…駆が今よりもっと俺と

 の時間を増やしてくれるんやったら、日

 頃から忙しい俺の気持ちにも余裕っちゅ

 うもんができるかもしれへんけど?」


 そんなニヤニヤした顔で言われたって信

用できないしっ。

 クロードは全然俺のお願いをちゃんと聞

いてくれないっ。


「いい加減にしろ。

 俺がお前を嫌いなことにクロード様は一

 切関係ない」

「だって、それじゃあ…」


 両腕を俺に掴まれたままのカイルが会話

に割って入ってくる。

 俺に構うとクロードが虐めてくるから俺

を嫌厭しているのでなかったのなら、カイ

ルは本当に俺自身のことが嫌いだって思っ

ているのだろうか。

 そしてそれは俺自身の性格に関すること

で、たとえば俺が今とは全然違う人間みた

いにならなければ友達にすらなりたくない

ということなのか。

 そう思ったら止まっていた涙が再び溢れ

だして止まらなくなる。


「な、何故泣く?

 お前が俺の友人になるメリットなどどこ

 にもない。

 お前はクロード様の」

「クロードは関係ないだろっ。

 俺はカイルと仲良くなりたいのっ!」


 クロードは関係ないと言ったのにここに

きてクロードの名前を引っ張り出してきた

カイルに思わず大きな声を出してしまった。

 俺とカイルが仲良くなるのになんでクロ

ードの顔色なんて窺わなきゃいけないんだ。

 そんなのおかしい。絶対におかしい。


「俺はカイルのことが好きで、カイルと仲

 良くなりたいのに…」


 呟く言葉と共にカイルの腕を掴む手の力

が弱くなる。

 と、掴んでいた腕がビクッと振るえる。

 伏せていた顔を上げてカイルを見つめる

と、カイルが顔をひきつらせて硬直してい

た。


「カイル…?」


 カイルはどうして俺を見てそんな顔をし

ているだろうと思ったけど、よくよく見る

とカイルの視線は俺じゃなくてその向こう

へ向けられていた。


「……?」


 カイルの肩を掴んだままカイルの視線の

先、背後を首だけで振り返る。

 そこには…。


「…クロードがそうやって怖い顔するから

 ダメなんだって言ってるだろっ」

「怖い顔なんてしてへんやろ。

 ただまぁ、少なからず面白くあらへんな

 ぁとは思うてるけど」


 目の奥だけ笑っていないクロードの顔は

ただ睨みつけるより怖いかもしれない。

 いやクロードが本気で怒ったら、多分こ

の何倍も怖いだろうけども。


「なぁ、駆?

 そないな奴に構わんと俺の部屋で飲み直

 そうや。

 ビーチバレーで疲れたやろうし、マッサ

 ージしたるで?」


 ニッコリと隙のない笑みを浮かべたクロ

ードが伸ばしてきた手を、すり抜けざまに

乾いた音を立てて誰かの手が叩き落として

俺の腕を掴んだ。


「戻りますよ、駆。

 アルコールが抜けるまで部屋の外を出歩

 くのは禁止です」


 何か良からぬことを考えていそうなクロ

ードの笑顔も嫌だけど、なんか機嫌の悪そ

うな兄貴についていくのも嫌だ。


「やだッ。

 カイルと仲直りするまで戻らないっ」


 兄貴に掴まれた腕をガシッとカイルの背

中に回して抱きつくと、抵抗すると思って

いなかったのか兄貴の手はあっさりと俺の

腕を離した。


「……仲直りするほど仲良くなった覚えは

 ない」


 呆れたような溜息が耳にかかり、そのま

まのトーンで小さな独り言のような呟きが

耳の奥に刺さった。


「じゃあこれから仲良くなるっ」

「断る」

「なんで!?」

「バカだろ、お前…」


 俺の後ろで兄貴とクロードが俺の意志を

無視して不毛な言い争いをしているけど、

そんなのより俺はカイルとの会話が大事だ。

 それなのにカイルは心底呆れたという目

で俺を見る。


「カイルが意地悪言う…」

「意地悪じゃない」


 じわっとまた溢れ出しそうな涙の気配を

感じたのか気まずそうにカイルが視線を逸

らす。

 怒っているのか、戸惑っているのか、呆

れているのか…それとも全部か。

 たとえそれらの内のどれだったとしても

カイルが俺を好きじゃないという結果にい

きついて言葉に詰まる。

 どんなに仲良くしたくても、どれだけ言

葉を重ねても、カイルの心が開かれること

は一生ないんだろうか。

 そんなの寂しすぎる。





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