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悪魔も喘ぐ夜 Character Episode
*


 が、それも一瞬だった。


「いいか、この際だからハッキリ言ってお

 く。

 俺は、お前みたいな、我儘で、図々しく

 て、能天気なバカが大嫌いだ」


 カイルはそれこそ取りつく島もないほど

冷めきった表情で、わざわざ一言ずつ区切

って強調しながら最後まで言い切った。


「き…嫌い…?」

「あぁ、大嫌いだ」


 面と向かってハッキリと言われるのはあ

まりにもダメージが大きく、震える声でお

うむ返しにしたら勘違いのしようもなく頷

かれた。


 カイルが嫌い?

 俺を、嫌い…?


 同じ言葉が頭の中でぐるぐると渦巻く。

 それは突然頭上に鉄板でも落ちてきたよ

うな衝撃で、ふわふわとした心地の良さを

一瞬にして消し飛ばした。


「カイルが、俺のこと、嫌い…?」

「お兄ちゃん、しっかりして?

 僕はお兄ちゃんのこと大好きだよ」


 呆然とする俺の頬に麗の唇が触れる。

 チュッとキスの音が耳に響くけど、柔ら

かいその唇の感触もどこか遠い。


「カイルが嫌いって言ったぁ。

 俺のこと嫌いって…」


 ぶわっと涙が視界を覆う。

 カイルがギョッとする気配は感じたけれ

ど、そんなのとは関係なく溢れ出した涙は

自分ではどうすることもできずに流れ出す。


「カイル、カイルがぁ…っ」

「これでいいんですよ。

 仲良くする必要なんてないんですから。

 ほら、部屋に戻りますよ」

「ヤダ!」


 俺の体を支えていた兄貴はサラッと酷い

ことを言ったけど、そんな言い分を聞くつ

もりは微塵もなくて打って響く速度で俺を

立ち上がらせようとする兄貴の腕を拒む。

 まだ涙の止まらない目で眉を寄せて訴え

る。


「俺はカイルと仲良くしたいのっ」

「本人が大嫌いだって言ったでしょう。

 聞いてましたか?」


 嫌だイヤだと駄々っ子のように首を振る

が、そんな俺をカイルより冷たい双眸が見

下ろしてくる。

 淫魔なんかと馴れ合う必要なんてどこに

もないのだと無言で正論を…兄貴の考えを

突きつけてくる。


「それでも!

 それでも俺はカイルと仲良くしたいの!」


 100%我儘だという自覚はある。

 けれど兄貴の言いなりになんかならない

と兄貴を睨む。

 今は嫌いだって、いつか友達になれる日

だってくるかもしれない。

 その希望まで踏みにじる権利なんて誰に

もないはずだから。


「いいですか。

 人間関係というのは片方がこうありたい

 と願っただけではただの願望でしかない

 んですよ。

 駆がどんなに仲良くしたいと思っても、

 大嫌いだと言う相手と友情は成立しませ

 ん」

「これから仲良くなればいいだろ!?」


 ムキになって言い返す俺の涙はようやく

引き、兄貴は深いため息をついている。

 その呆れなのか諦めなのかが、余計に俺

の苛立ちを煽った。


「カイルっ」


 立ち上がると平衡感覚が狂ってちょっと

だけよろめいたけど、それでもしっかりと

床を踏みしめてカイルの傍にズンズンと歩

み寄る。

 まだ潤いの残る視界でカイルが歪んだ表

情のまま身構える。

その傍らにドサッと腰を下ろして、ビク

ッと震えたカイルの両腕を両手でしっかり

掴む。


「カイルが嫌なとこは出来る限り直すから!

 だから嫌いっていうの、ちょっと保留に

 してくれ」






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あきゅろす。
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