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悪魔も喘ぐ夜 Character Episode
*


 しかしそんなことはどうでもいいほど俺

の意識はふわふわと浮遊する。

 トンッと背中に当たったのが兄貴の肩だ

と気付いた時には、支えきれずに崩れ落ち

そうだった俺の体は兄貴の腕に支えられて

いた。


「駆、ちゃんと座りなさい」

「ん〜、ふわふわする〜」


 体がポカポカして、意識が一点に定まら

ない。

 眠いのかと聞かれるとそうでもなく、そ

れでいて体が軽くなったような心地だ。

 兄貴に寄りかかったまま顔だけ兄貴を見

上げてヘラッと笑うと、兄貴は呆れたよう

に溜息をつくだけだった。


「お兄ちゃん、酔っぱらっちゃったの?」


 まだジュースをほとんど飲んでいない麗

は、不思議そうな表情でこちらを覗き込ん

でくる。

 
「酔っぱらって…なんか、ない…。

 飲んだの、ちょっとだけだし。

 だいじょーぶ、だいじょーぶ」


 へらへら笑って顔の前で手を振って見せ

るが、半分ほど中身の減った俺のコップを

見た麗は大きな目でじっと俺を見上げてく

る。


「今夜、僕の部屋に来てくれる?」


 麗の、部屋…?


「うん」


 麗ならだいじょうぶ。

 麗なら安心だから。


「ちょ、抜け駆けすんなや。

 勿論、俺の部屋にも来てくれるやろ?」


 クロードの、部屋ぁ…?


「ヤダ。

 クロードはちょっかい出して寝かせてく

 れないだろ。

 俺は病人なのっ」


 思いきり頬を膨らませて足首を捻挫した

ほうの膝をペチペチと叩きながら却下する

と、小首をかしげた麗が急に笑い出した。


「そりゃないやろ!?

 なんでこのチビはええのに俺はあかん

 の!?」

「麗はいいんだよ。

 麗は俺の嫌がることしないし。

 クロードは、自分の胸に手をあてて考え

 てみればいい」


 麗は兄貴に寄りかかったままの俺の腕に

腕を絡めてきて、クロードは自分の胸に手

を当てながら真顔でわからないと抗議する。

 クロードの思考回路にどれだけ俺の意志

が反映されているのか手に取るようにわか

るようだ。


「クロードは俺を振り回しすぎっ。

 もうちょっと俺を大事にしたってバチは

 当たらないと思うっ」


 不満げなクロードをビシッと指差して、

呂律の回らなくなってきた言葉で主張する。


 呂律が回らなくたって言いたいことが伝

わればいいんだっ。


「大体B&Bだってクロードが言い出しっ

 ぺだし、それに付き合ってるんだからも

 っと俺の我儘聞いてくれたっていいと思

 うっ」


 いつもならクロード相手に我儘を言おう

なんて考えもしないんだけど、なんだか今

夜は気分がいいし気が大きくなったような

気になってくる。

 今ならなんだって言える。


「…例えばどんな我儘や?」


 何かを考えるような間をおいてクロード

が問いを投げかけてくる。


 お、本当に俺の我儘聞いてくれるつもり

なんだ?


 今までの悪戯や横暴をちょっとは反省し

たのかなと嬉しくなりながら、クロードへ

の要望を思い描く。


「うーん…、あ、カイルを独り占め禁止!

 とか?」


 名案を思い付いたというのに、俺が言い

終わった直後に夕食を食べかけていたカイ

ルがむせた。


「独り占めってなぁ…。

 そもそもコイツは」

「クロードばっかりズルイだろっ。

 俺なんて未だにカイルにシカトされたり

 するのにっ」


 クロードも呆れ顔で緩く首を振るが、思

い出してムカムカしてきた俺はそれを遮っ

て口を尖らせる。


 そもそも俺がカイルと仲良くしようとす

ると目くじら立てるクロードだって悪いと

思うっ。


「桐生…クロード様に一切非の無いことで

 つっかかるな」


 また“桐生”って呼ぶしっ。


「俺は駆だって言ってるだろっ。

 桐生って言われたって兄貴や麗だって

 “桐生”なんだからなっ」


 未だに余所余所しいカイルの言動に逆撫

でされて勢いでそう口走ると、カイルも気

圧されたのか口ごもる。





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あきゅろす。
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