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悪魔も喘ぐ夜 Character Episode
*


「舐めるような量にしとけばええやん。

 せっかくの好意なんやから、そないに無

 下にせんでも。なぁ、駆?」

「えっ?クロード?」


 カイルとやりとりをしていたと思ったク

ロードはいつの間にかこちらの会話に混ざ

ってきて、さりげなさを装って俺の肩に腕

を回して引き寄せてくる。


「ほろ酔いの駆もかわえぇやろうなぁ」

「っ!」


 吐息をかけるようにして囁かれた言葉に

ビクッと身体が震え、上機嫌なクロードの

腕を肩から外そうともがく。

 あくまでもじゃれあってるだけという風

を装いたい俺としてはあからさまな言動は

できないものの、ビーチバレーで疲労して

いるとは思えないほどクロードの腕はしっ

かり俺の肩を抱き寄せていた。

 まさかクロードだってこんな場所で悪戯

なんて…でも、もしクロードが魅了(チャー

ム)の能力をこの場で使ったとしたら…。

 瞬時にクロードに悪戯される想像が背中

を撫でて、食事中から気を張らなければな

らなかったのかとテーブルの陰で精いっぱ

いクロードに抵抗する。


「く、クロード、今夜はもう疲れたんじゃ

 ないか?

 早く部屋に戻って寝たほうが…」

「いやいや、あのくらい俺にとっては準備

 運動やし?

 二人で部屋に戻るんは、駆にお酌しても

 ろてからでええよ?」

「……っ」


 怖い。

 すっかり上機嫌でケダモノの欲求を目の

奥に隠しもしないクロードも、俺の背後で

吹雪でも起こしそうなほど室温を下げてい

る兄貴も。

 どちらの手に引かれたとしても、今夜の

安眠は保障されない。絶対に。


「おっ、そうだそうだ。

 そういやウチのが自家製ジュース作って

 んだよ。

 それならいいだろ、ニーチャン?」

「えっ?あ、はいっ」


 俺を引き寄せるクロードの腕にさらに力

が籠っていることに焦りながら、亭主の問

いになんとか返答する。

 っていうか、酔ってるわけでもないのに

クロードはベタベタしすぎだ。

 いくら同性とはいえ、目に余るほどのス

キンシップは他人の注意を引いてしまう。


「あ、僕もジュース飲みたいっ」


 兄貴の斜め向かいに座っていた麗が元気

よく手を挙げて空のグラスをもって移動し

てくる。

 まるで何でもないようにクロードとの間

に割り込んできて、ニコニコと笑みを浮か

べたまま亭主にコップを差し出す。

 亭主は乗り気になってくれたことが嬉し

いのか二人分のコップを受け取ってキッチ

ンの奥へ消えた。


「サンキュ。助かった、麗」

「ううん。僕が大好きなお兄ちゃんの傍に

 来たかっただけだよ。

 それに嫌がっている人の体に無理やり触

 るのってセクハラって言うんだよね?」


 麗に間に割り込まれたクロードは何か言

おうとしていたようだったけど、セクハラ

という単語にビクッと動きを止めた。

 一応、俺が嫌がっているという認識はあ

ったらしい。

 クロードとの間に麗が入り込むことによ

って兄貴の虫の居所もちょっとマシになっ

たのか肌を刺すような気配はだいぶ薄らい

だようだった。


「ほら、ウチ自慢の特製ジュースだ」

「わー!」

「ありがとうございます」


 オレンジジュースのような色のジュース

を注いだコップを持って戻ってきた亭主が

麗と俺の目の前にコップを置いてくれる。


「美味しそうー。いただきまーす」


 コップを揺らすとコップの中で薄いオレ

ンジと濃いオレンジが渦を作り、麗は俺よ

り先にコップに口をつけた。

 俺もそれに続いてジュースを喉に流し込

んだ。


 コク、コク…


 癖のある南国フルーツでも使っているの

か、果物特有の苦みがさらにジュースの甘

みを濃くしている。

 ジュースを流し込んだ喉は火照ったよう

に熱くなり、強い柑橘系の香りが鼻から抜

けた。


「……?これって」


 麗は一口飲んだあたりでコップから口を

離し、きょとんとした顔でこちらを見上げ

てくる。

 けれどその言葉に何か返そうとする前に

頭の芯がキューっと絞り上げられるような

感覚に襲われ、直後に体全体がふわっと浮

くような錯覚を起こす。


「お兄ちゃん、これ…」

「ちょっと、アンタ!

 まさかあのお客さん達にこれを飲ませち

 まったんじゃないだろうね?!」

「ちょっと減っただけでビービー言うんじ

 ゃねぇよ!

 いいじゃねーか、ちょっとくらいよ。

 どうせジュースみたいなもんだろ…」

「いいわけないだろ!

 ありゃ甘いだけでアルコール度数はビー

 ルの何倍もある果実酒だって言ったのに

 忘れたのかいっ?!」


 さっきまで酔っぱらって最近の若者事情

を愚痴っていた主人が女将に怒鳴られて、

叱られた子供のように小さくなっている。

 女将の剣幕を前にして、海の男の気概は

どこへいったのか。





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あきゅろす。
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