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悪魔も喘ぐ夜 Character Episode
*


「ほら、カイルも行こうっ?」


 そんな考えを巡らせている間に、クロー

ド様から解放されることで空いた駆の左手

に腕を掴まれた。


「え?は、離せっ」


 冷えた手を駆の手のぬくもりがぎゅっと

掴んでくる。

 しかしそのぬくもりの温かさより、その

肌を突き破って貫いてきているであろう視

線の方が何倍も痛い。

 駆の自発的な言動だからこそ表面上は何

も仰らないが、こちらの見つめるその目の

奥でどれだけ暗い感情が吹き荒れているの

か想像するだけ恐ろしい。

 だから駆の手を振りほどこうとするが、

それより強く俺の手を握る駆は絶対離すも

のかというように力を弱めず会場フロアに

向かって歩き出す。

 駆に手を引かれて歩き出すが、背後を歩

くクロード様の静かな怒りが背中に幾重に

も突き刺さってきているようでとても振り

返れない。

 本当に桐生駆という人間に関わると碌な

ことにならない。

 無害なふりをして玄関先までズケズケと

上がり込んできたくせに出て行けと言って

も帰らない、そんな疫病神のような人間だ。

 そんな人間と“友達”なんて死んでも遠

慮する。

 本当に心臓がいくつあっても足りなくな

ってしまうではないか。


「おい、離せと言って」

「離したらカイルは来てくれないだろ?

 カイルがいなかったら写真を見返した時

 に寂しいよ」


 ふわり、とまた温かな羽毛が胸の奥を撫

でる。

 俺に向けてきた笑顔が他意や打算の可能

性を打ち消していく。

 その笑みを素直に信じてみたいと思わせ

るのは今夜が特別だからなのか。

 俺がクロード様の従者で、フェロメニア

として駆がクラウディウス家の庇護下に入

ることが最も身の安全を保障するという事

実は揺るがなくても。

 淫魔とフェロメニアとの友情なんて子供

ですら夢見ないと分かってはいても。

 クロード様の妨げにならない程度でなら

ば、駆が掴んできたこの手をそっと握り返

すことくらいは許されるだろうか?


 見上げた空には上弦の月がぼんやりと輝

いていた。











            - e n d -










 


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