[携帯モード] [URL送信]

悪魔も喘ぐ夜 Character Episode
*


「か、カイルぅ〜」


 二人からガッチリ体を掴まれている駆が

今にも泣き出しそうな情けない顔でこちら

を見ている。

 クロード様がいらっしゃらなければ躊躇

なく黙殺しているところだ。

 この捨てられたペットのような泣き顔に

少しでも同情して仏心を出すと、必ずクロ

ード様の不興を買ってしまうからだ。


「俺は知らん。

 恩を返さない非礼も守るつもりのない約

 束をしたのもお前だろう」


 というか、俺に助けを求めるな。

 駆は常々俺がクロード様の従者だという

ことをすっぽり忘れたような言動をするが、

駆が思っているほどの自由は従者にはない。

 何より駆の腰を抱き寄せているクロード

様がこちらに向けてくる笑みが無数の棘を

纏っているようで居たたまれない。

 駆が“友達になりたい”などと酔狂を言

うせいで、クロード様の駆に対する執着が

嫉妬や敵意となってこちらに向かってくる

のは本当に勘弁してもらいたい。

 駆の我儘にはなんだかんだと甘いクロー

ド様だが、それ以外の者…特に目下の者に

対しては本当に容赦というものを知らない

方なのだ。

 駆の我儘に巻き込まれてとばっちりを受

け続けていたら、いつか本当に神経が擦り

切れてしまう。


「まぁお前が冬期休暇中かけてクロード様

 に恩返しをしたいと申し出るなら、セシ

 リアに連絡くらいはしてやってもいいぞ。

 着替えやら用意もあるだろうしな」

「カイルぅ…」


 半分泣いているような情けない声を駆が

出したのとほぼ同時にクロード様から向け

られる気配が和らぐ。

 それとほぼ同時に秀の射抜くような視線

が刺さってくるが、それは俺にとって大し

た問題ではない。

 俺はクロード様の従者として間違った言

動はしていないし、秀が害を成そうとする

のならそれに冷静に対処するまでだ。

 そもそも秀が相対すべきは俺などではな

くクロード様なのだ。

 従者である俺に気を取られているようで

は、その隙にクロード様が駆をいいように

なさるだろう。

 それならばそれで、従者としての役割は

果たせるのだから一向に構いはしない。

 俺はクロード様の従者だ。

 従者であれば主の命令に従い、主にとっ

て最善の選択をし続けることが使命だ。

 余計な私情など切り捨てるべきなのだ。

 だからこれで正しい。

 人間と友達になるなんて、子供にとって

すらお粗末な夢物語なのだから。


「そないに怖がらんでも優しゅうしたるか

 ら、な?」

「帰りますよ、駆。

 これ以上面倒事が増えるのはゴメンです」


「お兄ちゃん、写真撮らないのー?

 みんな待ってるよ?」


 おろおろと二人の顔を交互に見ていた不

安げな顔が幼い少年の声を聞いてパッと輝

いた。

 コロコロと変わる表情が言葉以上に感情

の変化を語っていてとても分かりやすい。

 今この場を凌げたとしても、写真を撮り

終わった後のことまで頭が回っていないの

が丸わかりだ。


「ほ、ほら、みんな待ってるからさっ」


 他の者に迷惑をかけるからと秀の掴んで

いる手首を振り解こうというのは解るが、

その影で腰を抱き寄せるクロード様の腕を

解こうとしているのはどういう了見なのか。


「最後に記念撮影しないとパーティが終わ

 らないよ?

 帰るの遅くなっちゃうし、みんなも困っ

 ちゃうから」

「クロードも離してって。

 これじゃ歩けないだろ?」


 末弟が長男を説き伏せる間に、駆がクロ

ード様に懇願する。

 駆にとって末弟の登場はまさに助け舟だ

ったのだろう。

 が、双方の説得によってようやく二人が

駆から手を離した途端に空いた駆の右腕に

腕を絡ませてぴったりくっつくあたり、本

当に無邪気で可愛いだけの弟ではないのだ

ろうという考えが頭を掠める。

 クロード様は長男ばかりを疎ましがって

いたが、もしかするとこの三男も油断して

いるとクロード様を妨害する危険因子にな

るのではないだろうか。





[*前][次#]

あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!