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悪魔も喘ぐ夜 Character Episode
*


「まったく、どれだけ懲りたら自分から淫

 魔に寄りつかなくなるんでしょうね」


 そう言いながら俺を…いや、俺の手元を

忌々しげに睨む。

 その視線の先にあるのは、先程手渡され

たばかりのカードだ。


「“淫魔と友達になる”なんて寝言は夢の

 中だけにすればいいものを」


 忌々しげな呟きが杭のようにカードを手

渡してきた駆の笑みを脳裏に打ち付ける。

 その言葉だけでそれが真意なのだと確定

するのは早急かもしれない。

 けれど淫魔である自分と友達になりたい

という戯言にしか聞こえないその望みを、

最も近しい家族という存在にも告げていた。

 少なくともそれは事実のようだ。

 本気、なのだろうか。

 人間の…ましてフェロメニア体質の駆が、

本当に自分と友達になりたいと思っている

のだろうか。

 捕食者と被食者の間に友情なんて成立す

るのだろうか。


「バカなのか酔狂なのか…いや、救いよう

 がないのには変わりないか」

「うん?バカがなんだって?」


 近づいてきている気配はしていたが、誰

も聞き取れないくらい小声で呟いた言葉を

よりにもよって本人に拾われたと思った時

にはもう手に温かいものが触れていた。

 その温かさと突然手を握られたことに驚

く。

 思いがけず夜風にあたりすぎていたのか

と思うと同時に、悪気の欠片もなく笑う駆

の後方に見慣れた笑みを見つけたからでも

ある。


「ほら、こんなところにいつまでもいない

 で写真撮ろうって。

 みんな待ってるからさ」

「写真なんていらん言うんやったら来んで

 ええで?

 嫌や言うのを無理強いして撮るもんでも

 ないしな」


 子供のように無邪気な笑みをこちらに向

けてくる駆の肩に手を置きながら、クロー

ド様が秀に挑発するような視線を投げつけ

る。

 今夜のパーティの主催者としての立場を

知らしめる一方で、兄弟だからといつまで

も弟を過剰に独占しようとするなという牽

制をも含んでいるのか。

 そんなクロード様の視線に怖いもの知ら

ずな細めた鋭い視線で応じた秀に一歩も引

く気配はなく、俺の手を掴んでいる駆の手

首を掴んで強引に引き剥した。


「ご心配なく。

 僕らはもう帰りますから。

 …帰りますよ、駆。

 3時間という約束です」


 “帰る”という言葉で明確に家族とそう

でない者の間に線引きをしながら駆に帰る

ように促した秀だったが、その瞬間目に見

えて駆の表情が曇った。


「えー…。

 俺、もうちょっと」

「ダメです。

 破るつもりで約束したわけではないでし

 ょう?」


 不満げに何か言いかけた駆の声に有無を

言わせずに秀の声が被さって続きを打ち消

す。



「まだ帰らんでええやん。

 こないに楽しい夜はそう何度も作れるも

 んやないで?

 最後のゲストが帰るまで楽しんで、今夜

 は俺の部屋で休んだらええよ。な?」

「え……えぇっ!?」


 楽しげなフロアを横目に見ながらまだ帰

りたく無さそうにしていた駆だったが、肩

に置かれていた手が腕を撫でて腰を抱き寄

せ、思わせぶりに耳元に語りかけられてよ

うやく何を言われているかに気づいて目を

白黒させる。

 慌てた様子で体を離そうとするが、クロ

ード様の片腕のホールドから逃れることは

容易ではない。

 軽く引き寄せられたようにしか見えなく

ても日頃から暇を見つけてはトレーニング

メニューをこなしているクロード様の肉体

は着痩せて見えるだけで鍛えられているの

だ。

 というか、駆の反応は傍から見ていて鈍

すぎる。

 どれほどの貧乏人でも今夜のパーティを

開くのにどれだけの金銭が動くのか漠然と

でも計算できるだろう。

 それをプレゼントだからとタダで享受で

きると思うほうが間違いなのだ。

 だとしたら金銭的にまだ親から自立すら

出来ていない駆が返せるものなど一つしか

ないではないか。

 伝説のフェロメニアと言えど今夜のパー

ティにかかった費用の全てを一晩で返すこ

となどできないだろう。

 クロード様も全額回収しようなどと思っ

てもいないに違いない。

 だが今夜のパーティを開くにあたって費

やしたのは何も金銭だけではない。

 労力や時間といった、数字にはしきれな

いものも費やされているのだ。

 ならば利子くらい返そうと思うのが道理

だろう。





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