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悪魔も喘ぐ夜 Character Episode
*


「本当はもっとちゃんとしたの渡したかっ

 たんだけど、人数と予算的に厳しかった

 から」


 苦笑いを浮かべながら、ゴメンな?と非

があるわけでもないのに詫びてくる。

 二つ折りのカードは開いて見なくてもカ

ードの表にツリーのイラストが描かれてい

るだけでどんなカードなのか知れた。

 小さな包みも掌に収まるサイズながらリ

ボンで結ばれているところを見るとプレゼ

ントなのだろう。

 人間がクリスマスを楽しむために行うイ

ベントだ。


「こんな物、貰っても」

「気持ちだけだから。

 こんなすごいパーティ開いてくれたのは

 クロードだけどさ、俺も何かしたかった

 からさ。

 あの…それじゃ!」


 “困る”と言いかけて、首を振る駆に言

葉を遮られた。

 クロード様とは経済力からして違うのだ

から比べるだけ無駄なのは考えるまでもな

い。

 そもそも申し訳ないと思うのは相手が違

うだろう。

 そう言おうとしたが、もう駆はこちらに

背中を向けていた。


「…返せるものなんて持っていないぞ」


 クリスマスプレゼントは一方的に貰うも

のではない。

 家族や友達同士であれば交換するし、フ

ァーザー・クリスマス(サンタクロース)に

プレゼントをねだる子供でさえ靴下と一緒

に食べ物や飲み物を枕元に用意して眠るの

だ。

 二つ折りのカードをおもむろに開くと、

キラキラとラメの入ったペンで拙いアルフ

ァベットでクリスマスを祝う言葉が並んで

いる。

 クリスマスカードなど、本国でもクラス

メイト同士が交換しているのを眺めている

だけのものだった。

 自分から誰かに贈ることもないし、逆に

誰かから贈られることもない。

 それを寂しいと思ったことはないし、ク

ラスメイトを羨ましいと思ったこともない。

 “人間なんてただの食糧だから”

 親や兄弟が何度も俺に言い聞かせた言葉

を呪いのように繰り返し、そしてそれもい

つしか必要としなくなっていた。

 それなのに何となく心のどこかを羽毛で

擽られているように感じるのは何故なのか。

 しかし、そもそも桐生駆という人間は酔

狂だったと思い出して考えを改める。

 親兄弟でさえも生まれつき欠陥のある自

分を疎んできた。

 そして何より自分はクロード様の従者で

あり、クロード様の命あらば駆の意志を足

蹴にすることでもしてのけるだろう。

 今夜とてクロード様の命により駆の行動

を監視する任を受けている。

 そんな自分と友達になりたいと言ったの

だ。

 まっすぐにこちらを見て笑いかけながら

友達になりたい、と。

 その言葉の裏の意図が未だに見えない。

 あまりの阿呆ぶりに本当は言葉の裏など

何もないのではないかと思う瞬間もあれば、

見抜けないほど巧妙に隠されているのでは

と訝しむ瞬間もある。

 そういう理解しがたい酔狂な人間だから、

このカードやプレゼントの意味も真に桐生

駆という人間を理解するまでは分からない

のだと思う。

 リボンを解いて小さな包みを開くと、中

から出てきたのは赤い小さな玉。

 人間がキャンディと呼ぶ甘いお菓子だ。


「淫魔相手に菓子とは…。

 本当に何を考えているんだ、アイツは」


 もうパーティフロアに戻ってしまった背

中には決して聞こえぬほど小さな声で呟く。

 本当に何も考えていないのか、それとも

皮肉交じりの悪質なジョークなのか。

 人間にとってキャンディとは甘いものな

のだという。

 そしてフェロメニアは淫魔にとって極上

の蜜。

 そこまで考えて、ふと遠い日を思い出す。

 生まれつきの体質故に人間の性気に拒絶

反応を示す体に悪戯に垂らされた一滴の陶

酔。

 すぐに吐き気がくると覚悟して、けれど

訪れたのはふわりと浮き立つような高揚感

とまろやかな優しい心地。

 立っていられなくなるほどのむせ返る匂

いの中で、その感覚だけが研ぎ澄まされて

いくのは初めての体験だった。

 親が子に夢物語として聞かせるフェロメ

ニアという存在は、確かに永い間語り継が

れるほどの価値があったのだ。





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