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悪魔も喘ぐ夜 Character Episode
*


「…歩けるの、その足で?」


 しかし手を繋いだままの麗が俺に逃げを

許さないように畳み掛けてきた。

 それを言われてしまうと俺も言い返せず

に黙り込むしかない。

 腫れた右足はますます太くなってきてい

て、ちょっと鞭打ったくらいでは自力で歩

くことも出来なさそうだ。

 無理をしても最後まで試合が出来なくな

いのなら、最初から無理をせずに早くゲー

ムを棄権していればよかったのか…そう思

ってはみるものの、過ぎた時間は巻き戻せ

ない。

 厄介な体質だな、まったく…。

 溜息をついてみたけれど現状が打開され

るわけもなく、とりあえずべったりくっつ

いてきている麗をどうするかが悩みどころ

だろう。

 とにかく誰が何と言おうと夜まで逃げ切

ってしまえばこっちのものだ、たぶん。

 夜までに足の腫れが少しでも引くといい

んだけど。


「心配だなぁ。

 その足じゃいざとなったら逃げられない

 だろうし。

 ね、お兄ちゃん?

 僕が行くのがダメなら、お兄ちゃんが添

 い寝しに来てくれるのはダメ?」


 指を絡ませて手を繋いだままの麗が肩に

唇が触れそうな距離で俺を見上げてくる。

 今日の麗は珍しく押しが強く、我儘を言

っている自覚はあるだろうに自分の意見を

推してくる。

 夏の暑さのせいなのか、それとも行き過

ぎた心配性がそうさせるのか。

 もしかしたらそのどちらでもないかもし

れないけど、俺は手を伸ばしてそんな麗の

髪をかき混ぜるようにして撫でた。


「そんなに心配しなくても大丈夫だって。

 いざとなったら俺にだって秘策があるん

 だから」

「わーっ。

 んー、秘策ってなあに?」


 くしゃくしゃと俺が撫でて髪を乱すと慌

てた声は出したものの、もともとセットの

崩れてきていた髪型が乱れることには抵抗

がなかったのか自分の指先で梳きながら気

軽に尋ねてくる。


「それは秘密。

 秘策じゃなくなっちゃうだろ?」


 秘密とは言ったものの、麗は察しが良い

から勘付かれているような気もする。

 根掘り葉掘り尋ねられたわけでもないの

に麗は不思議と色々と気づいていることが

多いから。

 とりあえず今夜の安眠の為に俺が出来る

ことは、少しでも足の腫れが引くように大

人しくしている事と嬉々としてボールを相

手コートに叩きつけている二人の選んだ部

屋から一番遠い部屋を選ぶ事だけだった。





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