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悪魔も喘ぐ夜 Character Episode
*


「ここで待っていなさい」

「え?あ、兄貴っ?」


 駆をその場に残して黒服の男に足早に歩

み寄った。


「さっきから不躾にジロジロと見るの、や

 めてもらえますか」

「あーれぇ?

 アンタにも通じないんだ?

 まぁ、安心してよ。

 俺の狙いはあの子だからさー。

 つっても、その様子じゃアンタも同業者?

 ヤダなー。俺って喧嘩嫌いなんだよね」


 軽い口調でやたらとヘラヘラしながら返

してくるが、その目は決して下手に出てい

る訳ではなくむしろその逆のようだった。


「とにかくさ、俺が先にあの子に目ぇつけ

 たワケよ。

 俺が飽きたら次譲ってやるから、今日の

 ところは他あたってくんない?

 ほら、クリスマスだし。

 アンタみたいな美形なら食いたい放題で

 きるでしょ」


 ヘラヘラと笑うその目は駆を食料としか

見ていないし、自分を同じナンパだと同列

にしか見ていない。

 ゆらりと心の奥で湧き上がった黒い感情

が徐々に周囲を侵食し始めた。


「何を勘違いしているのか知りませんが、

 先に目をつけたほうが先だという理屈な

 ら僕のほうが先です。

 手荒な真似はしたくないので、黙って引

 き下がってくれますか」


 ついさっき通りすがったばかりであろう

この男に、何年もずっと駆に手を出さずに

いた自分の葛藤も欲情も理解できるはずが

ないし、理解する必要もない。

 ただ目障りだった。

 駆にその視線を向けることすら禁じてし

まいたいほどに。


「引き下がるだなんて、ハハハッ。

 いやぁ、わかってくんないかなー?

 アンタ頭よさそうなのにさー。

 喧嘩はキライだけど弱いわけじゃないの

 よ、俺。

 怪我しないうちに手を引いたほうがいい

 って。

 クリスマスに怪我なんて勿体ないだろ」


 笑ったままの顔のまったく笑っていない

目の奥で獰猛さが揺れる。

 どんなにヘラヘラ笑っていても手を引く

つもりは毛頭ないようだ。


「獲物なら他にいくらでもいるでしょう。

 他をあたってもらえますか。

 目障りですから消えて下さい」


 “目障り”という紛れもない本心を叩き

つけて引くつもりはないと態度で示す。

 誰も彼も駆がフェロメニアというだけで

目の色を変えるのはいい加減にしてほしい。

 フェロメニアでなければ駆に見向きもし

ないくせに。


「あーれぇ?アンタ俺とやるつもり?

 いやぁ、まいったなぁ。

 俺、ボーリョクとか苦手なんだけど。

 でもしょうがないよな?

 アンタが床に這いつくばるようなことに

 なっても、俺の獲物から手を引かないっ

 て言うんじゃさ?」


 爬虫類を思わせる目がニィと嗤う。

 “俺の”と不用意に発せられた言葉が殺

意に似た感情を逆撫でした。


「生憎とフリーではないんですよ。

 あれは生涯僕のものだと決まっているの

 で」


 さっさと視界から消えろと思う一方で、

その喉を潰してでも黙らせたいという衝動

が沸き起こる。

 少なくとも駆を奪い文字通り精が尽きる

まで喰らおうという淫魔に容赦するほど寛

容にはなれない。





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あきゅろす。
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