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悪魔も喘ぐ夜 Character Episode
*


「じゃあどうしたら駆は満足するんですか」

「そんなの、解らない」


 やたらとモテるのも通行人から注目され

やすい容姿なのも兄貴自身のせいじゃない

から。

 だったらどうすれば俺の望みどおりなの

かと尋ねられても明確な答えなんてあるわ

けなくて。

 これじゃ癇癪起こして駄々をこねている

子供とちっとも変らない。


「駆」


 考えれば考えるだけ落ち込んでいきそう

な俺を抱きしめたままの兄貴が後ろから声

をかける。

 それでも俯いて答えないでいる俺の顎を

掴んで引いた兄貴に静かに…しかし有無を

言わさずに唇を奪われた。


「んっ…」


 柔らかい感触。

 兄貴の吐息が近くて、後ろから抱き締め

られたままでは触れ合っている面積が広く

て自然と体の力が抜けてしまう。

 キスしたり兄貴に触れたいのは俺も同じ

だから。

 いつもなら俺を完全に言い負かせるまで

追及をやめないのに、こんなことをするな

んて兄貴らしくないと思う。

 でもこれが兄貴なりの不器用な譲歩だと

考えれば納得も出来て、だとしたらこれ以

上我儘を言うべきじゃない。

 というより、俺がもっと兄貴に触れたい。

 言葉の代わりに触れた唇は物足りなさを

残して離れ、程よく力が抜けていた兄貴の

腕を掴んで体を反転させ今度は俺がその唇

を追いかけた。

 触れて、離れて、視線が絡み合う。

 キスの合間の吐息に兄貴に言うはずだっ

た言葉を解いていくと、心の奥底に溶けか

けの寂しさが残る。

 あの女の人や通行人に存在を意識されな

かったことも、それを兄貴がどうでもいい

ことのように切り捨てたのにも確かに傷つ

いた。

 だけどきっとそれ以上に俺は自分で思っ

ている以上に寂しくて、兄貴に触れたかっ

たんだと気づく。

 兄貴の隣に立って相応しい相手になりた

かった。

 つきっきりで勉強を教えてもらうのは俺

だけであってほしかった。

 月に数回泊まりにくるだけじゃ足りない

し、兄貴にもっと触れて構って欲しかった。

 兄貴には言えないそんな我儘が胸の内で

こじれて、刺激された長年のコンプレック

スと相まって俺一人の手ではどうすること

も出来なくなってしまっていただけだ。

 胸の内のわだかまりが完全に解けるのは

まだ時間がかかるだろうけれど、今はそれ

以上にもっと兄貴の体温が欲しい。

 兄貴の体温で寂しさなんて溶かしきって

ほしい。

 そうしたら兄貴を困らせるような我儘な

んて言わないから。


「今はまだ周囲の雑音をシャットアウトし

 ろとは言いません。

 けれど他の誰よりも何よりも僕の言葉を

 しっかり聞きなさい。

 いいですね?」


 兄貴の言葉にただ黙って頷いた。

 確かに周囲の反応は俺にダメージを与え

ないかというとそうじゃないけど、兄貴の

言葉より重いかと言われたらそれは違う気

がする。


「俺は…俺も、気をつけるから。

 兄貴以外の奴に触られるの嫌だし…その、

 そういう意味で」


 兄貴がイライラしていた原因…それを思

い返す。

 電車で出会った痴漢…実は淫魔だったら

しいあの男に追いかけ回されて、それを黙

っていたと知られたあたりから兄貴の機嫌

は悪かった。

 耳の裏を舐められた生温かい感触を思い

出しただけで鳥肌が立つ。

 あんなのまでまさか“よそ見”だなんて

兄貴は思っていないだろうけど、兄貴が譲

歩して歩み寄ってくれたんだから俺もそこ

はちゃんと謝らなきゃ兄貴だって納得しな

いだろう。

 立場が逆で、もし兄貴が家庭教師をして

いる生徒の子に同じことをされたのだとし

たら、それが兄貴の本意ではないにしても

俺だって心穏やかではいられないだろうか

ら。


「あの…さ、シャワー浴びてきてもいい?

 思い出したら気持ち悪くなってきた」

「そうですね。

 僕が隅々まで洗ってあげましょうか」


 また舐められた場所を擦りたくなって、

それでは不十分だと考え直す。

 人混みの中を歩いてきたし、どうせなら

綺麗さっぱり汚れも洗い流したい。

 なのに…兄貴は俺の顎のラインを指先で

なぞって笑う。

 触れただけの子供騙しみたいなキスじゃ

足りないだろうと言わんばかりの意地悪い

目だ。

 それはすっかりいつもの調子で、憎らし

くもあり惜しくもあった。

 いつもなら、まるでサカってるみたいに

言うなと反論しているところだけど。


「ダメ。風呂場はのぼせるし。

 ベッドで、ちゃんと、したいから…」


 ボソボソと付け足した言葉は途切れ途切

れで、兄貴がそれをどんな顔で聞いている

かなんて恥ずかしくて確かめられない。

 勉強も大事だけど、今夜くらいは大目に

見てほしい。





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