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悪魔も喘ぐ夜 Character Episode
*


「じゃあさっきあの女の人にしたのは?

 何かしたんだよな?目、赤かったし」


 赤い目…あの目には見覚えがある。

 かつてクロードが俺に向けた目で、おそ

らく暗示か何かをかけようとして失敗した

時のようだった。

 というか、兄貴がいつの間にそんな芸当

ができるようになっていたのかというのも

含めて徹底的に問い質したいところだ。


「別に、何も。

 しつこいからお帰り頂いただけですよ」


 しかし兄貴はそれだけで、それ以上は何

も答えようとしない。

 そもそもあんな可愛い子に言い寄られて

“しつこいから”とサラリと流す兄貴はど

れだけ恵まれているんだと思う。

 いや、女性嫌いの兄貴からしたらバイト

だけの付き合いで完結していて、それ以上

を求められても本気で鬱陶しいだけなのか

もしれないけど。


「いつもあんな風にしてんの?

 バイト先でも?

 そもそも、あんなこといつから出来るよ

 うになったんだよ」

「あんな風とは?

 火の粉が飛んできたら払うのが普通でし

 ょう。

 それを効率よく行える手段があるから活

 用しているだけです。

 いつからと言われても…明確にいつとい

 うことはないですよ」


 まるで明日の天気の話でもするように兄

貴にとっては普通の話らしい。

 俺には寝耳に水の話でも、離れて暮らし

ている間に兄貴の中では当たり前になった

んだろうか。

 電車で数駅しか離れていないけれど、生

活の場が違うだけでここまで兄貴が遠い存

在になるなんて思いもしなかった。


「でも…淫魔のその能力って、そもそも獲

 物を惹きつける為の能力なんだろ。

 そういう使い方、してるってことは」

「本気で言ってるんですか?」


 兄貴は最後まで言わせてくれなかった。

 ブリザード並みに低く冷え切った声で俺

の言葉を遮り、呆れたような苛立ったよう

な視線で俺を刺す。

 自分を疑うのかとその刃のような視線が

俺を責める。

 不用意な発言が完全に地雷だったと気づ

いても既に引込めることはできなくて、た

だ否定して欲しかっただけの問いは行き場

を失って宙に浮く。


「思っては、ないけど…。

 でも兄貴はモテるから」

「言っておきますが、僕がその気になった

 ら相手に不自由することなんてありませ

 んよ。

 こんな能力を使う必要なんてありません」


 そこまでキッパリ言い切れる兄貴が羨ま

しくもあり悔しくもある。

 同じ血を引いた兄弟なのにと思う一方で、

その気になればいつでも誰かに…可愛い女

の子でもオトナなお姉さんにでも手を出せ

るんだという不安。

 でもそれより何より、兄貴と喧嘩なんか

したくないのに。


「ごめん…」


 二人が向き合っていた間の疎外感は、俺

の存在すら気づいていなかった女生徒のせ

いだけでなく絵になる二人をチラチラ見て

いく通行人の視線にも地味に削り取られて

いた。

 きっと二人をチラ見した道行く人々の目

にも俺は映っていなかっただろう。

 そう考え始めると惨めな気持ちに歯止め

がきかなくなる。

 “兄貴が欲しい”そう言ったこともあっ

たけど、俺が兄貴のものになることはあっ

てもその逆は永遠に叶わないんじゃないか

とすら思う。


「気持ちが籠っていませんね。

 もう一度」


 けれど兄貴はそんな俺の返事が気に食わ

なかったのか、それで終わらせる気がなか

ったのか、再度謝罪を要求してくる。

 心が籠ってないと言われたら反論は出来

ないし、複雑に入り混じる感情を押し殺し

て同じ言葉を繰り返す。





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