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悪魔も喘ぐ夜 Character Episode
*


「今夜くらいいいじゃありませんの。

 せっかくのクリスマスですもの」

「え……」


 まさか。

 まさか“あの”莉華の口から自発的にそ

んな言葉が出てくるなんて。

 明日は竜巻か大地震でも起こるかもしれ

ない。

 固まっている私にふと莉華は手を止めて

こちらを見てきた。


「ほら、ボーっとしていないで髪乾かして

 くださいな。

 恵が使い終わらないと私が使えないんで

 すのよ?」

「あ…う、うん」


 そう言われてしまってはさっさと髪を乾

かしてしまわないわけにいかず、鏡に向き

直って髪に温風をあてた。

 ほとんど髪が乾いたかどうかという時、

後ろから莉華が近づいてきた。


「ちょっとそのまま動かないでくださいな」


 すぐ後ろに立つ莉華が何かしているのを

不思議に思いながら待っていると、目の前

を見覚えのある銀のハートが過った。


「え?えっ?」

「身につけてくれるでしょう?

 せっかく買ったんですもの」

 
 そう言って私の首にそのネックレスをつ

けてくれた莉華の首元にも対の銀のハート

が光っている。

 お互いの首元に光る対のハートを鏡越し

に確認して莉華が笑う。


「ありがとう…」


 恋人と過ごすクリスマスも確かに素敵か

もしれないけど、こんなクリスマスもきっ

と今年までだと思えば今のこの瞬間もとて

も大事な時間に思えた。

 そろそろ莉華も髪を乾かしたいだろうか

らと席を立とうとしたら、そのまま後ろか

ら莉華の腕が首に巻き付いてきた。


「莉華…?」


 顔を伏せている莉華の吐息が首にかかる

のを感じながら、目線だけ莉華へ向けた。


「恵はこのまま時間が止まってしまえばい

 いと思う事ってありません?」

「えっ?」


 いきなり後ろから抱き着いてきて何を

言い出すのかと思えば突拍子もないこと

で、思わず答えに詰まっていたら莉華が

先に口を開いた。


「私はありますのよ。

 今が不幸なわけでも、未来に不満がある

 わけでもない。

 でも時々このまま時間が止まってしまえ

 ばいいにって願う瞬間が」


 莉華が何を考えてこんなことを言い出し

たのかはわからなかったけれど、人なら誰

しも一度は考えるんじゃないだろうか。

 楽しい時がいつまでも続けばいいのに、

と。


「今の恵との関係が崩れてしまうのは怖い。

 でも…春から学校も生活も別になって、

 来年のクリスマスに誰か私の知らない人

 と二人きりで笑い合っているのかもしれ

 ないと思うと胸が張り裂けそうになりま

 すの」


 首に回された腕に力が入る。

 けれど莉華が何を言おうとしているのか

何を伝えようとしているのかが上手く頭に

入ってこない。

 どうして莉華が私の未来の恋人に対して

そんなふうに思うのか分からない。

 そもそも莉華のほうが何倍もかわいいの

だから恋人ができるなら絶対に莉華の方が

早いと思う。





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