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悪魔も喘ぐ夜 Character Episode
*


 キュイイイィィィ!!


「わっ!?」


 蓋を開いた途端に黒い影がいくつも襲い

かかってきた。

 咄嗟に顔を庇うように腕をクロスさせた

けれども、そんな俺の耳元を数えきれない

ほどの羽音が通り過ぎていく。


 …いや、羽音?


 影が視界をいっぱいにしたから何か黒く

大きな怪物でも出たのかと思ったけれど、

顔の前でクロスさせた腕の向こうを薄目を

開いて確認したら、それは黒く大きな大蛇

のような列を作りながら石室を出ていくコ

ウモリの群れだった。


 いや、まさかそんな。


 いくらなんでも人一人を納めるサイズの

棺にこんなにもコウモリがひしめいていら

れるだけの空間はない。

 最後の一匹が出ていったその棺を改めて

覗き込んでみると、本来躯が横たえられて

いるはずの空間にはぽっかりと闇が口を開

けていた。

 まだよく分らなくて恐る恐る手を伸ばし

てみると、棺の底がない。

 さらに手探りで探ってみるとどうやら、

その棺の下にはだいぶ広い空間があるんじ

ゃないかと思い当たった。

 これより下の階が洞窟として存在してい

て、この棺はこの部屋の床をぶち抜いてそ

こと繋いだものなんじゃないかと。

 しかし飛び込んでみるにしても底が見え

ない。

 この洞窟がどれだけ深いのか、また地面

は落ちても平気な状況なのか、何一つ分ら

ない。

 迷っている暇なんてないのに、葛藤が再

び襲いかかってきた。

 しかし空いている棺がないなら、一か八

か飛び込んでみるしかないんじゃないかー

…。

 そこまで考えついたところで、不意に呼

吸が出来なくなる。

 誰の指も首筋には触れていないのに、気

道を内側から絞られる感覚に、パニックを

起こしてまだ痛む首筋に爪を立てる。

 脳が急な酸欠に喘いで目の前が暗くなっ

たり明るくなったりを繰り返す。


「やれやれ…。

 手こずらせてくれましたね。

 お前は僕の獲物だと言ったはずですよ」


 聞き慣れた冷たい声音が近づいてくる。

 それに続く足音も一人分ではない。

 でもそんなことはもうどうでもいいくら

いに気道を締められた体が悲鳴を上げる。

 喉元を押さえて背中を丸める俺の髪を無

遠慮に掴んで俺の体をのけ反らせる形で引

き寄せる。

 酸欠に意識まで危うくなっている視界が

重力を失って、虚ろな目で涼しい顔の兄貴

を映す。

 ここでようやく絞められていた気道が解

放されて肺に埃っぽい酸素が一気に流れ込

んできて咽る。

 酸素を欲する脳と許容量一杯の肺が喧嘩

をして骨まできしむような咳を繰り返す。

 ついでに胃の中まで吐き戻しそうになる

けれども空の胃は胃液をせり上がらせるだ

けで、ようやく解放された喉を内側から焼

いた。


「あぁ、罪人共の“処刑場”やないか。

 こんなところに逃がしてむざむざコウモ

 リ共の餌にしてやるわけないやろ」


 クロードは口の端に笑みを浮かべて、行

儀悪くブーツを履いたままの足で棺の蓋を

閉じた。


「落ちなくてよかったね?

 もし落ちてたら、体を串刺しにされて人

 食いコウモリ達に生きながら食い殺され

 てたよ。

 そんな勿体ないことにならなくてよかっ

 た。

 どうせ食べられるなら僕に食べられたい

 よね?」


 ニッコリと天使のような無垢な笑顔で兄

貴とは反対側に回り込んできた麗が腕を絡

ませてくる。





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