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悪魔も喘ぐ夜 Character Episode
*


 背中から吹いてきた風に混じる話し声が

声に聞こえないほど遠ざかってようやく肩

の力を抜いた。

 なんだかやたらと神経を磨り減らしそう

な場面だったけれども、なるべく早く忘れ

てしまおう。

 目覚めるまで覚えていたら何か不幸が降

りかかってきそうだから、身近な所からわ

りと本気で。

 とにかく入ってきた正門が無理なら、他

に出口はないものなのか。

 そびえ立つ塀は高いし、傍に立っている

今にも崩れそうになっている枯れ木にはも

はや骨皮になって白骨化しかけているゾン

ビが何体も首を吊っている。

 それによじ登って塀を越えられるか試す

だけの度胸は流石にない。

 しかし誠一郎や樹に似た化け物と分かれ


てからだいぶ経つ。

 正門を諦め東屋の脇を迂回して進んでい

る現在の進行方向は、館を抜け出したのが

西側だとすれば南側の正門の前を通り東側

から今度は塀伝いに館に向かって歩いてい

る。

 館の北側に裏門があるとしても、一度は

逃げ出した屋敷の横を通らなければならな

い。

 館の外壁から塀まではそこそこ距離があ

るとはいえ、彼らは闇の中でも視界を確保

できるのだから十分に注意しなければいけ

ないだろう。

 もっと言えば、何故今の今まで俺を追っ

てきているであろうメンバーと顔を合わせ

ないのかが不思議だ。

 特にまだヒリヒリと痛む印をつけたあの

化け物がこんなにも追ってくる気配がない

なんて不気味でしょうがない。

 印をつけられたら兄貴似の化け物から逃

げきるだけでいいよというルールに変わっ

たのなら、まだ救いはあるのかも知れない

けれども。

 とはいえ、体力的にも精神的にもそろそ

ろ限界だ。

 いい加減に出口が見つかるか、こんな悪

夢は醒めてくれないだろうか。


 そんなことを考えながら歩く視界の隅に

青い光が過った。


 季節外れの蛍か?と思ってみたがどうや

らよくよく見ると虫じゃない。

本当に青白い小さな光がいくつも辺りに舞

っている。

 しかし火の割には暖かくならないそれが、

日本では霊魂とか鬼火とか呼ばれるものじ

ゃないのかと気づいた。


「もう勘弁してくれよ…」


 これだけ怖がらせて、ここまで痛めつけ

て、まだ足りないのか。

 もうそろそろ泣き言を言っても赦される

ような気がする。

 進むのは気が引けたけれども、この火の

玉の群れを迂回して進もうとするとだいぶ

館寄りを歩かなければいけなくなる。

 ふわふわと宙を動いているけれども触れ

なければ無害だろうか?

 火の玉の動きは予想不可能だったが、今

のところ襲ってくる気配はないし動きその

ものも目的があるようでもなく緩慢だ。





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