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悪魔も喘ぐ夜 Character Episode
*


 いつか見た映画のように、この無数の墓

石の下からゾンビが顔を出さないだけマシ

だと自分を励まして歩く。


「あッ、や、だぁッ…!」


 喉から絞り出すような声が静かな墓地に

響く。

 痛みとも快楽ともつかぬその声の主がど

こにいるのか、とりあえず身をかがめて辺

りを闇を探った。


「あらあら…逃げようとなんてするからで

 すわ。

 大人しく私の指先で可愛がられていれば

 その茨がその肌を突き破ることなんてあ

 りませんもの」


 …いた。

 進行方向の先、東屋のようなところに人

影がある。

 目を凝らすと頭上で腕をひとまとめにさ

れる姿勢で柱の一つに蔦のように絡みつく

薔薇の茨に体を縛りつけられている片岡先

輩と、おそらくそれに向き合うように立っ

ているのは大倉先輩だろう。

 暗い夜の中でよくは見えないけれど、鳥

かごの中に収まるサイズだった片岡先輩は

何故か等身大のサイズに戻っていて、申し

訳ない程度に体に巻き付いている布は衣服

の残骸だろうか。

 隠しておきたいだろう場所はすっかり剥

き出しで晒されており、とりあえずそれが

露骨に見えてしまうだけの光源が先輩達の

傍になくて安堵した。

 いくら夢と言えども見てしまうのは申し

訳ない気がするし、次に顔を合わせる時に

どんな顔をしていいのか解らなくなる。

 …まぁ夢の中でも部長との仲は相変わら

ずみたいだけど。


「ほら、気持ちいいでしょう?

 素直におなりなさいな」


 部長が何をしているのかまではこちらか

らは見えない。

 だがまず間違いなくこちらの気配に気づ

かれたら不味いだろう。

 縛り上げられている副部長には申し訳な

いけれど、ここは全力でスルーさせてもら

わないとこちらの命が危ない。

 …それにちょっと気持ちよさそうな声出

してるし?

 ふと頭をかすめた考えを気のせい気のせ

いと振り払う。

 しかし物音をたてずに立ち去るというの

は結構難しく、神経を張りつめながら一歩

ずつ進む間に耳を塞がなきゃいけないよう

な声が響いてくる。


「今年こそは逃れらえないように体の外に

 も内にも私のモノだという印を焼き付け

 て差し上げますわ。

 使い魔になったら永遠にも近い時間を私

 と共にできますのよ?

 なんと幸運なフェアリーでしょう。

 嬉しいでしょう?」

「やっ、あッ、もう抜いてぇ…ッ」

「抜いていいんですの?

 悦んでこんなにとろとろになっているじ

 ゃありませんの」


 2人が何をしているか、何をしようとし

ているかなんて知りたくない。

 俺には関係ないし、現状どうしようもな

い。

 ひたすらに声を殺し、音を忍ばせ、気配

を消してなるべく早く迂回する。

 頬を撫でる夜風に混じる声がだいぶ小さ

くなってからようやく肩の力を抜いた。

 喉に焼き付けられるだけでもあれだけの

激痛を伴ったのに、それを体の内にも…改

めて考えるだけで冷や汗が出る。

 本気なんだろうかと考えてしまってから

今は脱出が最優先だと心の中で片岡先輩に

詫びた。

 印をつけられるにしても、あれよりはマ

シな苦痛でありますようにと祈りを添えて。





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あきゅろす。
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