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悪魔も喘ぐ夜 Character Episode
*


 なにはともあれ、知人に似た面の化け物

達には外見で騙されない方がいいと学習し

た。

 どれほど人畜無害そうに見えても、皆一

皮むけば非道な怪物なのだ。

 姿を見かけたら一目散に逃げなければ命

が危うい。

 この悪夢が覚めぬ以上は、なんとしてで

も逃げ切るしか生還することはできない。


「それじゃせいぜい頑張って逃げるといい

 よ。

 僕はもうこれで行くけれど、他のメンバ

 ーたちは年に一度のニンゲンをそう簡単

 には諦めないだろうし、特にその印をつ

 けた者は息の根が止まるまでニンゲンを

 追い続けるだろう。

 かつてこの館に足を踏み入れて生きて門

 の外に出た者はいないけれど、それでも

 足掻くと言うなら足掻けばいいよ。

 今夜はHalloween。

 追う獲物が逃げれば逃げるほどパーティ

 は盛り上がる」


 爽やかな笑みと闇に響く笑い声を残して

白衣の影は去っていった。

 いつのまにやらもう一つの影もいなくな

っていて、諦めてくれたらしいことがわか

る。

 仰向けのまま赤い月をぼんやりと見上げ

る。


 確かにこの化け物達の館から無事に逃げ

出すなんて至難の業だろう。

 なんとか館の外に出られたとして、すん

なりこの高い塀の向こうへ行ける確証なん

てない。

 けれど誰も逃げ出せた過去がないからと

いって、一度は観念したからといって、こ

のままむざむざ殺されてやるつもりもない。

 逃げ切ってやる。

 この館から逃げ切れた、最初のニンゲン

になってやる。


 ムクリと起き上がった。

 もう体力は0に近かったけれど、まだ動

ける。

 地面に寝転がり泥だらけになった体を引

きずるようにして塀伝いに歩き出した。

 喉を外側と内側、両面から焼かれている

ようで呼吸もしづらいけれど、それで酸欠

に陥らないなら歩ける。

 もう誰にも出会わないことを祈りながら

黙々と足を動かした。





 塀伝いに歩き、角にあたってまだ歩いた。

 途中、ようやく見覚えのある門に辿り着

いて縋りつくようにしてだいぶその門を揺

すってみたけれど、玄関のドアと同じよう

にどれほど体重をかけて揺すっても門はビ

クともしなかった。

 金属製の門扉には足をかけられる隙間が

あったけれど、足場から足場への間隔がや

たらと遠く、無事に登りきったとしても向

こう側へ無傷で着地できるとは思えなかっ

た。

 つくづく正規のルートでは帰らせてくれ

ないようだ。

 苛立ったがここを出口にできないなら長

居するだけ時間の無駄だった。

 思わず漏れた舌打ちを残してその場を後

にする。

 悲鳴を上げる体を引きずるようにして歩

く。

 もう体力も底を尽きそうで、いっそ立ち

止まってそのまま眠ってしまおうかという

考えを先程の躯を思い出して打ち払う。

 諦めたら次にあぁなるのは自分だ。

 死んで何百年経ってもこの狂った洋館で

躯を晒し、葬ってももらえないままでは成

仏もできないだろう。

 そしてこの館に永遠に囚われたまま、ハ

ロウィンの夜にこの館に戻ってくるのだ。

 そんな未来は文字通り死んでもゴメンだ。





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