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悪魔も喘ぐ夜 Character Episode
*


「逃がして、くれんの?」


 食いたいのはどいつも同じだろうと視線

をやると、一寸考える素振りを見せ白衣の

ポケットから錠剤のようなものを取り出し

ピンク色の液体が入っている試験管の中に

投げ入れた。

 錠剤はピンクの液体に触れた途端にジュ

ワジュワと泡を出しながらとけていき、そ

の手が試験管を揺すっている間に緑色の液

体に変化した。


「そうだね。

 今夜は年に一度のパーティだから、今見

 逃すとまた来年の今夜までニンゲンは食

 べ損ねてしまうかな」


 あぁ、だから皆目の色を変えたのかと頭

の隅で理解する。


「しかし僕は生まれつきの研究者なんだよ。

 ニンゲンがつけられたその印、この薬で

 消せるのかとても興味がある。

 ニンゲンが今ここでこの薬を飲み干すな

 ら、今年は諦めてあげてもいいかな」


 そういって緑色の液体が揺れる試験管を

差し出される。

 断るという選択肢など最初から考えてい

ないように。


「………」


 その怪しげな薬を飲めば見逃すと言う。

 そしてそれが正しく作用するならば、こ

の喉元についた印は消えるらしい。

 だが彼が嘘をついていないか、そして本

当に見逃してくれるのか確証はなかった。


「…あぁ、狼男が興奮してきた。

 焼けた肌はそんなに美味しいのかな。

 早くそれを飲まないと、そのまま狼男に

 喉を食いちぎられてしまうよ?」


 さっきから闇の中でブンブンと揺れてい

る尻尾にも、首筋に幾度となく鋭い犬歯が

あたるのにも気づいていた。

 気づきたくなかったけれども、やはりこ

のままではこのまま誠一郎に似た化け物に

喰われてしまうらしい。

 迷っている暇はなかった。

 キュッと唇を引き結んで試験管を受け取

ると、もうどうとでもなれというヤケクソ

な思考回路で試験管の中身を飲み干す。

 それが喉の粘膜を撫でた瞬間、焼けつく

ような痛みが内側から襲い手に持っていた

試験管が手から滑り落ちた。

 落ちてガシャンとあっけなく割れる音に

驚いたのか誠一郎は後方に跳んで距離をと

り、俺は逃れようのない痺れに喉を掻き毟

りながら身悶えた。

 目の前がチカチカして体温調整できなく

なった体が汗をかいたり逆に凍えるほど冷

えたりをものすごく短い間に何度も繰り返

す。

 吐き出したくても吐き出せない液体を体

の外に押し出そうと何度も体が嘔吐を促す

信号を送り、得体の知れない液体の代わり

に汗や涙や唾液が生理反応で体から溢れ出

した。


「あぁ…やっぱりニンゲンには耐えられな

 いのかな?

 マンドレイクの粉末を煮詰めて濃縮して

 濾過したものに赤カボチャの種とドラゴ

 ンの爪を砕いたものを加えて…」


 遠くで何やらブツブツと喋っているけれ

ど、こちらはそれどころではない。

 地面に這いつくばって吐き出せるものを

一通り全て吐き出した後は、今のでなけな

しの体力を全て持っていかれてぐったりと

地面に突っ伏していた。


「あぁ…グショグショだね。

 これでもやっぱり印は消えなかったのか。

 残念。今年こそはと期待したのだけど」


 ぐったりとしている俺の肩を掴んで仰向

けにさせ、1ミリたりとも変わらぬ笑みを

向けられた。


「あぁ、でもよかったね。

 300年くらい前に薬を試したニンゲン

 は、目の前で溶けて骨になってしまった

 から。

 今でもこの辺りに骨が転がっていたと思

 うけれど」


 ゼェゼェと肩で息をしながらゾッとした。

 それは先ほど蹴つまづいた骸骨の主の話

だろうか。





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