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悪魔も喘ぐ夜 Character Episode
*


「…何故、泣き叫ばないのですか。

 どうして命乞いをしないのですか、お前

 は」


 もう無駄な抵抗はやめようと考えること

もやめてさぁどうぞと無抵抗でいたら、更

に苛立ったような声が俺を責めた。

 まるで無茶苦茶に抵抗して逃げ出して欲

しいように。


「なんでって…。

 ここまで俺を絶体絶命に追い込んで、そ

 れでアンタは何を望んでるの?」


 もう充分に抗ったし逃げ出そうと画策し

ただろうと思うのに、まだ物足りないのか

目の前の我儘な化け物が顔を歪めいている。

 俺の問いに対する答えを自分の中に探す

ように。


「…泣き叫ばない獲物をいたぶっても愉し

 くありませんから」

「じゃあ、逃がす?

 逃がすなら逃げるよ、俺は」


 あまりと言えばあまりな言い分にもう苦

笑いしか浮かんでこなくて戯れを口に出し

てみたけれど、それは嫌なのか顎を掴んで

いる手に力が入る。

 なんだか知らないけれど化け物の中には

俺の知らない葛藤があるらしく、それはう

まい具合に俺の味方をしてくれているらし

かった。

 だから助け船を出すことにした。

 俺の口車にのせられたのだと言い訳がで

きるように。


「………」


 鉛のような体を起こして膝をついている

化け物の耳元に唇を寄せてそっと囁く。

 ついでにさっき舐められたお返しとばか

りに血の気の通わぬ冷たい耳も舐めて返し

た。

 突然の言われたことされたことに思考が

フル回転しているのか怪物はかたまったま

ま動かない。

 それを利用させてもらうことにした。

 引きずるような心地で窓の枠に腰の乗せ

ると後は重力に任せて窓の外へ体を投げ出

す。

 着地こそ無様だったかもしれないけれど

それでも無事に館の外に出られたことには

変わりがなく、そこから月明かりに照らさ

れた墓地の中を一気に走り抜けた。

 現在位置は分からなかったけれどとにか

く背より高い塀も伝っていけばいつかは門

に辿り着くだろう。


「ッ……」


 喉にそっと指先で触れると、やはりまだ

痛い。

 コレがある限りは本当にどこにいても知

られてしまうのだろうか。

 でも居場所がわかったところでここから

出られれば…もっと言えば今夜を乗り切れ

ばどうにかなるはずだ。

 カイルの話が本当なら、特別な夜は今夜

だけだから。

 明日になって古代ケルト暦で新年に入れ

ば穢れは浄化されて新しい一年が始まる…

はずだ。

 印をつけられた獲物が化け物の所有物に

なってしまうという考え方ならその限りで

はないかもしれないけれども。





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