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悪魔も喘ぐ夜 Character Episode
*


「あんたらは低能だな」


 命乞いも泣き落としも、きっとこの化け

物には効かないだろう。

 けれども挑発ならば、命がけの挑発なら

ばきっと乗ってくるはず。

 それに賭けるしかなかった。


「今になってそんな言葉で私を苛立たせよ

 うとしても無駄ですよ。

 あそこでお前の提案に乗ってあげたのは

 駄犬に手を引かせる為です。

 それ以上でもそれ以下でもない」


 容赦のない言葉が降ってくる。

 どうせ咄嗟に出たハッタリだろうと鼻で

笑っている。


「ニンゲンを喰う事しか考えてないから低

 能だって言ってんだよ。

 もっと他に楽しみ方があるだろう」

「ククッ…何を言い出すのかと思えば…。

 命乞いにしたってもう少し利口にやれば

 いいものを」


 床や壁に手をつきながらようやく立ち上

がるが、まだ喉の痛みは引かずに咳をする

度に激痛が走る。

 それに顔をしかめながら窓に体を凭れか

からせてその顔をじっと見た。


「アンタとよく似た顔の奴が悦ぶことを俺

 は知ってるぞ」


 ここにきてようやく小馬鹿にした表情が

ピクリと動いた。

 見極めようとしているのかスッと目が細

められる。


「でもアンタは俺をなぶり殺したいんだろ

 うから一生わかんないんだろうなぁ。

 可哀相に」


 だから一瞬さも憐れんだ目で流し見て、

プイと興味を失ったように反らしてやる。

 お前になんて興味ないよ、というのを態

度で示す。

 思考回路が兄貴とそっくりなら、そっく

りならきっと…。


「気に食いませんね、その顔。

 お前は獲物の分際で、身の程も知らずに

 私を愚弄するのですか」


 痛い位の力で顎を掴んで引き戻された。

 その気になれば、もしかしたらこのまま

顎の骨を砕くくらいの力は出るのかもしれ

ない。

 けれど、だとしても俺にはもう退路がな

いのだ。


「どうぞって言ってんの。

 俺を少しずつ壊して喰いたいんだろ?

 その代わり、ニンゲンの愉しみ方はアン

 タには一生わかんないよ」


 怒りのまま嬲り殺されるか、それともギ

リギリで乗ってくるかの二択。

 ここまできてまだ足掻きたい俺も、大概

諦めは悪いと思う。

 いっそ斧で首を落とすくらいあっさり殺

してくれるなら悪夢らしくそういう終わり

方もありかなと思わなくはなかったけれど

も、一筋縄ではいかないんだろうここの化

け物達は。


「愚かな…身の程知らずのニンゲン。

 その口が騙った言葉を死ぬほど後悔しな

 がら死んでいきなさい」


 あぁ、失敗したかな。

 まるで他人事のように頭の隅で誰かが思

う。

 ただでさえ難しい性格の兄貴に似た化け

物をそう何度も手玉にとれるわけはなかっ

たのだ。

 無駄だったなら、もう後は大人しく諦め

るしかない。

 できるだけ痛くないといいな。

 いっそ痛すぎてすぐに意識手放せるとか

でもいいけど。





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あきゅろす。
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