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悪魔も喘ぐ夜 Character Episode
*


 酸欠で意識が危なくなる頃になってよう

やく放り出される形で解放された。


「ゴホッ!ゴホッゴホッ!」


 掌が首筋から離れる瞬間の肌を焼いたで

あろう匂いとジュワッというその熱を物語

る音が脳裏に刻みつく。

 飢えたように酸素を肺に送りながら、改

めて彼らにとって人間は“人間”ではなく

“ニンゲン”なのだと思い知る。


「さぁ、まずどこから食べてあげましょう

 か」


 床の上で丸まって苦しむ俺の顎を狂気み

たいに尖ったブーツの先端が持ち上げる。

 その顔は愉悦に歪んでいた。


「あぁ、その前にまず野犬のマーキングは

 消さないと気持ち悪いですね」


 床の上で這いつくばって動けない俺の前

に膝をつくと、虫の息になっている俺の顎

を持ち上げて先程噛まれてようやく血が止

まってきているそこを舐めた。

 喉の痛みも引かぬ間に先ほどの痛みを思

い出して嫌でも体が震える。

 しかし身構えていたものの痛みは襲って

こず、ただ血を舐めとっただけで満足した

ように放り出された。


「おや、不満ですか?

 もうお前は私の物なのだから、壊してい

 くのは一度痛みが引いてからですよ。

 そうでなければつまらないでしょう?」


 性格の悪さは兄貴に由来するのか…わか

らないけれども、とにかくまだ手出しをす

るつもりはないと分かったのは不幸中の幸

いだったかもしれない。


「どうせ悪あがきを考えているでしょうか

 ら、先に教えてあげます。

 お前はもう私の手から逃れることはでき

 ませんよ。

 その印がある以上、たとえ何処にいても

 私がお前の動きを逃すことはありません」


 まるで俺の思考回路なんてお見通しだと

いう顔で兄貴の顔をした化け物が先回りす

る。


「私はあのバカ犬のように生易しくありま

 せんから。

 いっそ殺してくれと懇願するようなやり

 方でじわじわ食ってあげます。

 声が枯れ、涙が枯れ、最後の最後に命を

 枯らしてあげますよ。

 お前の理性とやらは、いつまで保つでし

 ょうね?」


 聞きたくもない呪詛のような言葉が降っ

てくる。

 けれど今回ばかりは何がどうあってもそ

の声に屈するわけにはいかない。

 言いなりになってしまったら、本当に言

葉通りのことをするだろう。

 それはおそらく、クロードに似た化け物

が俺にしようとしていたことより何倍も残

酷なことのはずだ。

 何かないか。何、か…。

 もういっそこんな悪夢は覚めてくれない

かと思うけれど、これほどの目に遭っても

まだ夢は覚める気配を見せなかった。





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