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悪魔も喘ぐ夜 Character Episode
*


「あ、あのさ…」

「まぁまぁ、二人ともそのへんにしとき。

 久しぶりの“お客さん”なんやし、困ら

 せたらあかんやろ。

 主である俺の顔立てて、二人とも手ぇ引

 いてんか」


 いつもとんでもない我儘で俺を振り回し

てくれるクロードが緩慢な態度で割って入

ってきた。

 現実の世界ならばクロードの言い分など

絶対に聞かないであろう二人がその一言で

黙る。

 相変わらず睨み合ってはいたけれども。

 どうやら世間の常識どころか世界の理や

人間関係までおかしくなっているらしい。

 一番の問題はこの世界からどうすればま

ともな世界に戻れるのか皆目見当もつかな

いことだ。


「さぁニンゲン、皆も揃ったことやしその

 ケーキ食べてくれへんか。

 年に一度、まじないの力が最大になる今

 夜の為に作らせた特別なケーキやさかい」

「まじ、ない…?」


 先ほど案内してくれる道中でカイルがハ

ロウィンの話をしていたけれど、それと何

か関わりのある話なんだろうか。

 しかしこんな部屋ではとても食欲なんて

わかないし食べずに済まそうと思っていた

だけにそう言われてはこっそりテーブルに

戻すことも出来なくなってしまった。


「じゃ、じゃあ…」


 ちょっとだけ、と本当に申し訳ない程度

に隅をかじる。

 すぐに呑み込んでしまうのは怖い気がし

て噛みながらしばらく舌の上で転がしてみ

たけれど、変な味がするとか妙にパサパサ

しているといったことはないようだ。

 本当に市販されているケーキみたいな味

で、無言のまま2口目を促すクロードの視

線に耐えかねて今度はもう少し大きめの一

口を口に含んだ。

 噛み砕こうとしたところで奥歯に何か硬

い物が触れ、怪訝に思ってケーキの中から

それを抜き出した。

 手の中に吐き出してみると、それは小さ

いながらちゃんとした銀の指輪だった。


「ちょ…こんなの誤飲したらどうす」

「占いの結果は指輪や!

 最初にこのニンゲンを捕まえた者が一人

 で食ってええで!」


 一言言ってやろうとしたら、あっさりス

ルーされて高らかに宣言される。

 それぞれ談笑していただろうにそれがピ

タッと止まって、全員の視線がこちらを向

いた。

 体を突き刺すいくつもの視線が、もう人

間じゃないし人間を見る目でもない。

 あぁ、俺は…人間は獲物なんだな…。

 怖いほどにスッと頭が理解した。

 深い森で迷子になって辿り着いた先は飢

えた狼の群れでした、なんて笑えない。


「え、えーと、落ち着こうか?」


 それとなく皿をテーブルの上に置いてジ

リジリと後退しようとする。

 それが出来なかったのは麗が俺の服の裾

を既に掴んでいたからだ。

 ヒクリと喉が鳴る。

 タチが悪いのはその狼達が良く知る知り

合いの顔をした化け物だってことだ。

 そんな奴らにバリバリ食べられるなんて

考えるだけでゾッとする。





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あきゅろす。
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